未来は星屑で満ちていた

from..星座のかたちを捜すように
(※キュンもギュンもないマイペースな話です)


むくってけっこうすぐ怒るほうだと思う。というよりすぐふてくされるというか。そういうところがめんどくさい。でもかわいくって、またからかいたくなる。

だから今も、怒った顔をしているからわはわはと笑っていたら「おまえいい加減にしろよ」って、心底イライラしているみたいな表情でため息を落として先にお風呂に行ってしまった。

同じアパートにお引っ越しをして3ヶ月経つ。

むくが怒った理由は、わたしが部屋を片付けなかったから…という本当にくだらないこと。そんなに怒ることないじゃんって思っちゃった。なんせわたしは今まで、どんなに部屋が汚かろうと、物を出しっぱにして散らかしていようと、誰にも文句を言われずにきたんだ。

それなのに、歯ブラシするときに歯磨き粉が鏡に飛び散ってるだの、ヘアアレンジするのはいいけど落ちた髪の毛拾えだの、靴下たたむ時ははくるっとしちゃだめだだの、片付けろだの…几帳面すぎるむくがめんどくさい!

あ、むく、タオルとぱんつ持ってってないじゃん。何してんの。そんなに怒ること?そりゃ何回か注意されてたけどさ。…一緒に棲むって大変なんだなあ。


「むく、着替えとタオル持ってきたから置いておくねー!」
「……」


無視ですか!!怒ってるからってお礼も言えないなんていけない子!

何かしてこらしめてやろう。もう二度とこいつに怒るのはやめよう、と思わせられるような感じの…何かないかなー…まあ、こういうことしかないよね。

いそいで自分の着替えとタオルを持ってきてむくの着替えの隣に置く。そして自分が今着ているものを全部脱いですっぽんぽんになった。よし、突撃しよう。

だけど念のため、鏡で自分の身体をチェック。これでも、相手はむくでも、毛はちゃんと刈ってるよ。一応むくだってオトコノコだもん。何があるかわからないじゃない。わたしたち付き合っているんだし。親友の時からぜんぜん変わってないけどね、それがまたむくらしくて好きなの。

わたしが気にしてるのは毛じゃなくて、傷。まあお肉もちょっと気になるんだけどね。だってむくと暮らすようになってからいっぱいごはん食べないと文句ばっかり言われるんだもん。

でもそんなに気にならないかな。傷は…もうすっかりなかったけど、あばらのところに一つだけ、たぶんもう二度と消えそうにない、皮膚がえぐれた痕が残っている。


「……」


これ、神成が来るようになってすぐに付けられたやつ。洲田くんに抱かれた時はすごくびっくりされたし、自分が傷ついたみたいに痛そうに顔を歪めていたのを思い出す。

バイトの時も、体育の時も、部活の時も、誰かの前で着替えたことなんて一回もない。むくにも見られたことない傷。なんか、背中とかならまだいいけどさ…水着だってスクール水着とかワンピースタイプのしか着れないじゃんね。パレオでもギリ隠せない場所だなあ。

前に付けられた部分すぎて忘れてたけど、これ、むくに見られたくないなあって今更思った。


「おい。りく、絶対入ってくんなよ」


こもった浴槽に響いたむくの声に振り向く。


「え!なんでバレたの!?」
「おまえがやろうとすることなんて大抵わかるんだよ。入ってきたら許さねえ」
「うっ」


そう言われると…うずうずする。立ち入り禁止の場所とか入りたくなるタイプなんだよ。今にも真っ裸なムックチャンに飛びついて慌てふためく顔を見たい。見たい。

見たい、けど。でも、わたしってやっぱりオンナノコなのですよ。洲田くんには見せられたものも、ムックチャンには見られたくないのですよ。なんだこれ、たくさん好きみたいじゃんか。恋、みたいじゃんか。

実感する。好きだってこと。


でもこの傷見られたくないってことはさ、これから先一生ドーテームックチャンだね…!わはは、それもまた最高。…なんて、んな可哀想なことできるか!


「むくー。ねえ、わたしの身体さ」
「なんていってるか聞こえない」


入ってこいってことかな!?よしよし、と胸元でバスタオルを巻いてお風呂のドアを開けた。


「は!?」


愕いたむくがぎょっと目を見開く。わはは、髪がずぶぬれだ。欲しかった反応にときめきを感じる。


「あのさあ、ムックチャン」
「おい、ちょっと、おれが言ったことわかってる?」
「わたしの身体、傷が一個だけ、治らないところがあって、一生見せられないかも」
「なんだよ急に」
「ムックチャン、一生ドーテーだけどごめんね」
「は、そんなんどうでもいいんだけど。それより傷がなに?」


どうでもいいの?本当にオトコノコ?もう毛のショリいらない?


「ここ…見る?」
「見せたくないから巻いてんだろ?」
「わはは、よくわかるね」
「今言ってたけど」
「ああそっか、言ったかあ」
いけない子じゃないね。かわいい子だ。
「背中でも流しましょうかむくちゃん」
「いやいい。ほんと、いいからとりあえず出て片付けしといて」
「えんりょしないでー。同棲してる仲じゃん!」


手のひらにボディソープをつけるわたしを見て、むくはあきらめたようにため息をついた。ため息ばーっかりだ。

むくと棲んでいることを仕事場の人に話すと決まって「いいなあ」「ラブラブなんだね」なんて言われる。それがとてもうれしくてたくさん話しちゃうんだけど、もしかしたらむくはちょっと嫌になってきているかもしれない。

だけどわたし、構われたいんだよ。むくのふてくされた顔は好きだけど、それ以上にもっと、むくに怒られると家族って感じがして心地がいいんだ。…ドエムかもしれない。もうなんでもいいや。


「さわるよー」
「どーぞご勝手に」


ふうん。もっと断固拒否してくると思った。じゃあまあやってあげますか。背中洗ってあげますか。

そっとむくに触れる。親友だったころにはできなかったこと。

何も変わらないなんて嘘。本当は全然ちがう。無理やり一緒の布団で眠って、そうするとむくから手を繋いできたりして、むくのことで頭のなかがいっぱいになる。

ザッキーが言ってた「触れたらわかる」って本当だった。むくのこと、すっごく好き。こんな気持ち大嫌いだったのに相手がむくなら愛しいものになっているの。


「なありく」
「んー?」
「あのさあ、変な意味じゃないけど、おれはどんなりくてもいいよ。なんだっていい」


ヘンなイミって〜?って、悪戯心で聞きたい気持ちをちょっと堪える。

だってむくの声が真剣だったから。


「毛むくじゃらでもいいの?」
「べつに」
「お風呂に1週間入ってなくても?」
「…3日で勘弁して」
「うそだあ。絶対我慢できないでしょ」
「相手がおまえならできるよ」
いやいや、綺麗好きなんだからきっとムリだよ。だけどその気持ちがうれしいよ。
「傷、見る?」
「どっちでもいい。どうせいつかは見るんだし」
「…へえ〜〜。今夜でもいいんですよ?」
「……」


そこで無視ですか。そうですか。むくらしいね。


「ねえムックチャン、ありがとう」
「片付けもちゃんとやれよ」
「はーい」


一生ドーテームックチャンは嫌らしい。
なんとも素直なかわいい子だ。わたし以外は絶対にだめだよ。なんてね。

背中をゆっくり洗っていたけど結局追い出されてしまった。まあいっか。とりあえず鏡を綺麗に拭いて、洗濯物でもたたんで、今日の夜ごはんを作ろう。


「りく、バスタオルとって」
「はあい」


お風呂場のドアから手だけがひらひら出ている。バスタオルを渡す前にそこにくちづけると、頭をバコッと叩かれた。本当に痛い。


「う〜〜〜!」
「まじうざい」
「ひどいよお」


でも好き。なにされても許せる。これがいつか「許せない」ってなってもね、むくとは一緒にいたい。きらわれないようにしなくちゃね。


その日の夜ごはんはオムライスにした。ケチャップで星を書いたけど容赦なくスプーンで消されて喧嘩した。だけど楽しい喧嘩だった。

歯を磨こうと洗面所に立つと隣にむくがきた。


「どうしたの?」
「見張る。歯にも悪いからガシガシ勢いよくやるなよ」
「口うるさい人だなあ」


じっとりとした目で見られる。わかったよう。言われた通りやるよう。

歯磨き粉はわたしの好きなぶどう味。歯ブラシはむくのおすすめのやわらかタイプ。色はみずいろと緑。

みずいろの方を手に取って歯磨き粉をつけて口に含むとむくも同じことをした。シャカシャカふたりで並んで歯磨きをするのが鏡に映る。


「なんかさ」
「ん?」
「わははっ。わたしたち、しんこんさんみたいだね」


めんどくさいことばっかりだし、むくはちょっと嫌そうだけど、相変わらず手放す気はないよ。


「まあ、そのうちな」


予想外の返事が飛び出てきた。むくは本当に、照れなくなったなあ。


「わはは!わたし子供は3人ほしいなあ」
「どうそご勝手に」
「子供は勝手にできないんですよーだ」
「おまえってなんでいつもそういう話してくんの?」
「わからないの?誘ってるんだよ」
「さっきまで傷見せらんないから一生できないとか言ってたくせに」
「あんなの嘘に決まってるじゃん。いくらでも隠しようはあるんですよムックチャン」
「念の為一応言っておくけど、これから先おれ以外ととか許さないからな」


それどころか。な…なんてことをいうんだ。

わたしが言うならまだわかるけど、むくからそんなことを言ってくるなんて。

親友だったころじゃありえなかった。わたしが誰と何しようが「ふーん」「あっそう」だったのに、人間って日々成長するのね…。感動しちゃう。


「もちろんだよお。子供4人でもいいんだからね!」
「はあきもい」
「えーむくはかっこいいけどなあ」


どんなわたしでもいいって言ってくれたの、うれしかった。そういうむくだから安心できるんだよ。


「わ、ちょ、あぶねっ」
「わはは!好き!」


歯ブラシなんてしてる場合じゃないよ。
はやく終わらせて、今日はキスでもして眠ろう。わたしたちの時間は、未来は、星の数ほどあるんだから。

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本当にどうでもいい数時間の話なんだけどりくむくっぽく過ごせているみたいでよかったです(*^^*)長々とありがとうございました!
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