企画 | ナノ
 


炬燵に入り、淹れたてのココアを飲む。冷たい風が吹き付ける外とは反対に、この部屋はとても暖かく、過ごしやすい空間となっていた。
数年前までは、この部屋にもクリスマスツリーがやリースが飾られていたために、クリスマスがきたのだという実感も湧いたが、今ではそれも倉庫の中。また、朝起きれば枕元にはプレゼントが置いてあるということも中学生になればなくなり、それまでの日常となんら変わりない1日となっている。ほら、サンタさんだって対象年齢を小学生以下って決めなきゃ、いつお金がなくなってホームレスになるか分からないし。まぁ、それは今の話にはあんま関係ないか。つまり、何が言いたいかというとさ、今日はクリスマスなのに、この部屋にはそれらしいものなんて1つもないんだなぁってことですよ。

「これ、どう思います?悠太さん」
「…はい?」
「一歩外に踏み出せば、そこにはイルミネーションの輝く街並み。賑わうカップル。プレゼントを貰って嬉しそうな子どもたち。それなのに、うちは…ねぇ?」
「……ごめん、お兄ちゃん全然話が読めない」

突拍子もない俺の言葉に、向かい側に座る悠太は案の定困った顔をしてみせた。そしてそのまま、それまで読んでいた本へと視線を戻す。少しでも相手をしてもらおうと思ったけど、どうやら失敗に終わったようだ。せっかく親が不在で二人きりだっていうのに、悠太はさっきからずっと俺を放置して1人で読書に夢中。そんなに面白いのかなーと思って、さっき後ろから覗いてみたけど、どうしても俺にはそれに引き込まれる理由がわからない。これが漫画なら、話は別なんだけど。暇潰しに読んでいた雑誌や漫画は読み終わっちゃったし、ゲームをやる気分ではないし。んー、暇だ…。
退屈になった俺は、少しぬるくなったココアを口に含み、そのまま寝転がる。昼寝でもしようかと思ったが、口の中に広がる少しの苦味と甘味に、ふと、なんかこれ悠太みたいだなぁという考えがよぎる。いつも優しくて何でもしてくれるけど、ときどき厳しくて俺のことを寂しがらせる悠太。まさに、甘味と苦味が絶妙なバランスで混ざり合っているようだ。俺としては、甘味と苦味の割合が9:1くらいがいいんだけど、現実は7.5:2.5くらいなんだよね。俺は、もっとお兄ちゃんに甘えたいんだけど。

「ねぇ、ゆーたー。ひまー」
「…………」
「ねぇってばー」
「…………」
「ゆーた?」

一向に反応のないことを不思議に思い、上体を起こして悠太を見れば、本を開いたまま机に突っ伏している姿が目に入った。どうやら、俺が一人考え事をしている間に悠太の方が寝てしまったらしい。もー、ずっと放っといて最終的には一人で寝ちゃうって、どういうこと?そう思うものの、悠太が風邪を引くのは困るから、とりあえず隣の部屋から毛布をもってくる。もちろん、自分の分も忘れずに。そっと、起こさないように毛布を掛けてあげてから、自分は向かい側から悠太の隣へと移動する。そして、机の上に置かれた悠太の手に自分の手を重ね、俺も瞼を閉じたのだった。

「おやすみ、ゆーた…」





(プレゼントがなくたって)(君と居られればそれだけで充分)



悠太とメリークリスマス様へ提出
Thanks.反転コンタクト




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