A requiem to give to you- 二つの夢が出会う時(1/10) -
「ほい! 注文してたグミとボトル類な」
ケセドニアのとある場所に位置する『好薬堂アルマーズ』にヒースは来ていた。カウンターの奥から中身がたっぷりと入った袋を持ってきたエチルドは元気よくそう言うと手元のそれを手渡してきた。
ヒースは一つ礼を言うと持っていたガルドを支払い、袋を受け取る。
「いきなり来たのに色々とまけてもらって悪いな」
「良いって事よ! このご時世だしな。今はどこも高くって大変だろ?」
その言葉にヒースは「本当だよ」と苦笑しながら頷く。
現在、キムラスカとマルクトの戦争により食材から武器、ちょっとした備品に至る様々な物が高騰していた。特に武器を始めとした鉄や皮などは通常の何倍もするほどの価格上昇を見せ、とてもではないが全員分を買い替えるほどの金銭は持ち合わせていなかった。
また旅の必需品でもある薬や魔物除けとなる品々もなかなかの良い値段になっており、アニスがいつもの調子であったのならば絶叫物だった事だろう。
それでも先の大移動による荷物の消耗が激しかったのもあり、補充は必須だったのでいつも通りヒースが進んで買い出しに来ていた。なるべく安く仕入れたいが、値切りはそこまで得意ではない彼は一先ずエチルドの店へと足を運びダメ元で頼んでみたところ、エチルドは快く戦争前の通常価格でグミや薬を売ってくれた。
勿論、エチルド自身も流石に来る客全員にこのような対応をしている訳ではないが、これも築いてきた縁なのだろう。「友達価格」と言ってくれたのを感謝しつつヒースは気持ち多めに支払う事にした。
「それにしても、中立区域だってのにこの緊張感よ。しかも街の中にまで国境なんか引いちまってるもんだから、行き来するのが本当に大変だぜ」
「みたいだな。だからこそ酒場を利用して通るんだろうけど……」
と、ヒースは国境を越える為に通った酒場での出来事を思い出す。
酒場では漆黒の翼が利用者へと通行料を取っており、しかもそれが一人千ガルドと高額であった。こちらはミュウを入れて十人(?)もいたものだから危うく一万ガルドも持っていかれるところだったが、ジェイドが脅s……説得した事で何とか無償で通る事が出来た。
実のところ両国の兵士たちもこっそりと利用しているのもあり、酒場を使っての国境越えは暗黙の了解となっている。それを利用した非常に悪質なことではあったが、この物価高騰の様子からしてもある意味仕方のないのかも知れない。……勿論、悪い事を擁護する気はないが、今はそれを気にしている場合でもないのだ。
「んで、ヒース達はこれからどうするんだ?」
「キムラスカの首都へ………と、行きたい所だったんだけど、急を要する事態が発生してね。ザオ遺跡へ行く事になった」
「そうなのか。そりゃまたマイナーな所へ行くなぁ」
「……まあね」
流石に一般人にこの辺が地盤沈下してるから、なんて安易に言えない。
ジェイド達が連れてきたエンゲーブの人達を受け入れてもらうよう依頼する為、イオン達と別れた後に立ち寄ったアスター邸。邸の主人であるアスターは既にイオンから依頼を受けていたらしくこちらもまた快くエンゲーブの住人達を受け入れてくれた。
しかしその顔色はあまり優れず、ルークが問うたところにアスターがここ最近の地震の影響でザオ遺跡とイスパニア半島に亀裂が入り、地盤沈下が起きてい事を教えてくれた。
アクゼリュスが沈み、セントビナーと来て次はケセドニア周辺。徐々に沈みゆく大地に恐怖を感じるも、ザオ遺跡にもセフィロトがある事を思い出し、シュレーの丘の時のように出来るかも知れないとルーク達は気が付いた。
それにこのままでは戦場ごと沈みかねない。そうなれば今までよりも多くの犠牲が出てしまう。ナタリアの真偽を晴らす為に一刻も早くバチカルに向かうべきだが、責任感の強い彼女自身の願いもあり、一行は予定をザオ遺跡へと変更したのだった。
ヒースは袋を仕舞うとエチルドに再度礼をした。
「とにかく、本当に助かった。仲間達も待ってると思うし、そろそろ行くよ」
「おう、これからも贔屓にしてくれよ。……今は凄く大変な時期だけどよ、必ずまた元気な姿を見せてくれよな!」
「ああ、その時はまた頼むよ」
こんな時でも変わらない友人に安堵しながら、ヒースは一つ笑うと踵を返して店を出た。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
ヒースが買い出しをしているその頃、グレイは街の入り口に停めてあるアルビオールの前にいた。ヒースが買い出しに出て、タリスもティアと共に気落ちしたナタリアやアニスを励ます為、二人を連れて旅立ち前の最後の観光に出ている。
ガイとルークはノエルと今後の進路について打ち合わせをしており、ジェイドもまた街にて両国やダアトの動向を探るべく情報を集めている。
そして残ったグレイは、特にこれと言って出来る事もなかった為タリスかヒース、もしくはジェイドについて行こうとしたのだが、珍しく全員から断られてしまった。かと言って、護衛していた先のイオンもおらず、ルーク達の方に行くにしても流石にそこまで人数はいらないだろうと思いあえてそこには入らなかった。
……久し振りに、やる事がなくなってしまった。
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