A requiem to give to you
- 過去より今を、今より未来を(2/7) -



「フィリアムか。帰っていたのね」



そう声をかけてきたのはリグレットだった。彼女はフィリアムがここにいる事に少し意外そうに目を瞬いている。



「ただいま、リグレット。これから任務?」

「ああ。大詠師をキムラスカまで護送せねばならない……それより」



と、リグレットはフィリアムの顔を見て少し表情を暗くする。



「顔色が良くないな。暫く任務はないのか?」

「あ、うん。実は………」



それからフィリアムはテオルの森での出来事と、これからの事をリグレットにかい摘んで話した。フィーナとの事や記憶については勿論伏せて、だが。

リグレットは一通りの話を聞くと「そうか」と言って、手を頭に乗せてきた。



「リグレット?」

「正直、私もお前の様子は心配していた。お前はあまり気持ちを表に出したがらないからな。それにアクゼリュスから帰ってきてから体調も良くなかったみたいだし、今回の休暇は良い機会だと思うわ。今の内にしっかりと休みなさい」



優しく微笑みながら頭を撫でてくるリグレットに、フィリアムはまた少し胸が苦しくなるのを感じながらも、その中にある暖かさにどこか照れ臭そうに「ありがとう」と頷いた。

それからふと、思ったことを口にしてみた。



「リグレットって、偶にすごく兄貴や姉貴……………レジウィーダみたいな事をするね」

「え?」



その言葉にリグレットは驚いたように手を止めた。



「なんて言うかな。面倒見が良いって言うか、その………きっと、年の離れた姉がいたら、こんな感じなのかなって思って。………あ、気分を悪くしたら、ごめん」

「………いえ、大丈夫よ」




そう言ってリグレットはフィリアムの頭から手を下ろして笑った。



「私も、弟がいたら…………今ならきっと、こんな風に接する事が出来るのかも知れないわね」



その笑顔はどこか悲しげに見えたのは、きっと気のせいではないだろう。そんな彼女に、フィリアムはどう言葉をかけたら良いのかわからなかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「♪数えた足跡など、気付けば数字でしかない

知らなきゃ行けないことは、どうやら1と0の間」



セントビナーの崩落が始まって数日。初めこそ大きな地震が続き、沈んでいく浮遊感を感じたりはしていたものの、数時間後にはその速度も緩やかなものとなっていた。

少しずつ小さな揺れを時折起こす事はあれど、立って歩けない事はない。残された人々の不安は残るが、一先ず通常通りの生活をしてもらっていた……とは言っても、いつ何がどうなるかはわからないので、家が遠い者たちには入り口に近い宿や、軍基地のベッドを使用してもらい、なるべくお互いに離れないようにしてもらいつつではある。



「♪初めて、僕らは出会うだろう

同じ悲鳴の旗を目印にして

忘れないで、いつだって呼んでるから

重ねた理由を二人で埋める時、約束が交わされる」



レジウィーダは不安がる住人達になるべく安心してもらえるようにと、毎日元気に歌を歌ったり、子供達と遊んでいた。

勿論、これで人々の不安が拭えるとも思ってはいない。だけど子供の元気な笑い声は、確かに大人達の気持ちを少なからず向上させていた。

その頑張りもあってか、今日はいつもよりも住人同士の会話にも明るい話題が増えているようにも感じて、レジウィーダも嬉しそうに歌を口ずさむ。そんな彼女の側にはニベンを始めとする子供達も集まっていて、その中の二人はレジウィーダの紅い髪を楽しそうに編んでいる。



「レジウィーダちゃん」



そう、声をかけてきたのはニベンだった。彼は子供達のリーダー格であり、子供ゆえの無茶なところはあるが、基本的には誰にでも優しく、元気に遊ぶ姿がトレードマークとも言える少年だ。

そんな彼はいつもの元気の成りを潜めたように、助けた時からずっとどこか悲しげだった。

レジウィーダは歌を止め、ニベンを振り返ると「どうしたの?」と優しく問いかけた。



「あの………ごめんなさい!」



ニベンは意を決したように立ち上がると、勢いよく頭を下げた。それに周りの子供達は驚いたようにニベンに視線を向けるが、彼はそれに構わず続けた。



「おれが……あのときちゃんと、おっちゃん達の言うことをきいてたら………レジウィーダちゃんも、ヒースもなかまのところにいけたのに……。おれ、すぐにかくれんぼを終わらせたくなくって、みんなにたくさんめいわくをかけちゃった……」

「ニベン君」



レジウィーダはニベンの名前を呼ぶと、自身の隣をポンポンと叩いた。

それにニベンが恐る恐る隣に座ると、そっとその小さな肩を抱き寄せた。



「君にとって、大切な時間だったんだよね。それを邪魔されるのって、確かに面白くないよなぁ」

「…………うん」

「家族と離れちゃったのは、寂しい?」



シエルは無事に母親とタルタロスに乗り込めたようで、街には取り残されてはいなかった。父親も早々に徒歩で街から出ていた為、残ったニベンはマクガヴァン親子の元で今は基地に寝泊まりをして過ごしている。

そんなレジウィーダの問いに、ニベンは小さく頷いた。



「そっか……」

「でも、シエルは……母さんといっしょにいったんだろ?」

「そうだね。今はジェイド君達がエンゲーブに連れて行ってくれている筈だよ」



そう言うとニベンは安堵したように「なら、よかった」と笑った。



「あいつ、まだ小さいから……ちゃんと母さんといけたかしんぱいだった」

「兄妹の仲が良かったんだね」



何だかそれが微笑ましく、そしてどこか羨ましい気持ちを感じながらレジウィーダが言うと、ニベンは嬉しそうに頷いていた。



「かわいい妹だぜ。ビジンだし、しょうらいはユーボーだから、そのへんのウマのホネにはやらないって父さんと約束してるんだ」

「はは、そっかー。……じゃあ、その可愛い妹が変な男に捕まらないように何が何でも合流して守ってあげないとだね!」

「もちろん! だっておれは、せいぎのヒーローアビスマンでもあるからな!」



そう言ってレジウィーダの腕から離れたニベンの顔は、もう悲しげではなかった。
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