A requiem to give to you- 遠い記憶が望むコト(2/9) -
「アッシュ自身に何か異変が起きているのかとか、仮にそうだとしてあいつ自身がそれを自覚しているかとかはわからないけど…………何にしても、今はヴァンをシバいて世界の問題を解決してからになるだろうな」
「そうねぇ。でも、その頃には私たちはここにはいない可能性があるかも知れないわよ」
「その時には、ルーク達に何とかしてもらうしかないだろうね」
悔しいけどさ、とヒースは苦笑する。でも、それは彼の言う通りだった。世界が平和になって、預言から覆った未来を得た時点で自分達の役目が終わるのなら、その先の事には関与出来なくなる。
「ええ………でもせめて、大した事でなければ良いと祈りたいところよねぇ」
「そのくらいは許されるだろ。何にしても、僕達は進み続けるしかないんだから」
「勿論よ」
そう、全てはこの戦いに決着を付けてからだ。負ければ、一人どころか世界全土の命が消えてしまうのだから───
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「ど う し て こ う な っ た」
ヒースは薄暗い、紫の空間で一人そう突っ込んだ。
ここはアブソーブゲートの深部だった。ノエルを入口に待機させ、ルーク達と共にこの地のセフィロトへと入った。それから暫く奥へと進み続けていたのだが、外殻大地自体の限界が近いのか、大きな地震が前にも増して頻発しており、こんな時でもそれは容赦なく襲ってきた。初めは屈んだり、お互いに捕まり合ってやり過ごしていたのだが、何回目かの大きな揺れでついに足場が崩れてしまい、仲間達は皆バラバラになってしまった。
落ちた直後はお互いの声は聞こえていたのだが、直ぐに合流が出来そうにはなく、仕方なく先へ進んで改めて合流しようと言う話になった。声を聞く限り、殆ど二人ないし三人くらいずつで分かれたようだった……が、
「何でこんな役に立つか立たないか微妙なやつと一緒になってしまったんだ……」
「喧嘩売ってるのかテメェは」
あまりの言いように怒っているのか、体毛を逆立てパチパチと第三音素を纏わせて唸るトゥナロにヒースは悪びれることもなく「だってさ」と口を尖らせた。
「あんた、戦えないだろ」
「戦えないとは言ってない」
「でも戦う気がないなら一緒だ」
「まぁ、確かに戦う気はないな」
やっぱりハズレじゃねぇか。
「ハズレとか言うな。寧ろ大当たりだろうよ」
「いや、どこが?」
トゥナロに戦う気がない。しかも彼の器はアリエッタからの借り物だ。下手に傷つけれられない事を考えるのなら、いやでも守りながら戦わないと行けないではないか。その辺のモンスター程度ならば最早さしたる障害にはならないが、もしも途中でヴァンやフィーナ、六神将にでも出会したらそんな悠長な事も言っていられなくなる。
あまりにも不安要素しかない事実に肩を落としていると、トゥナロは前足でこちらの足を小突いてきた。
「余計な事を考えるな。お前はお前のやりたい事をすれば良いんだよ」
「僕のやりたい事、ねぇ」
フゥ……、と溜め息を吐いて足元の存在を見下ろす。「それだったら」と呟くと、ヒースは背中にある大剣を抜いてトゥナロへと突き付けた。
「僕はあんたを追い返すよ」
「はぁ? 急にどうした」
急じゃない、と首を振る。
「トゥナロ、あんたはローレライの使者だと言った。その言葉の通り、あんたからはグレイにはない第七音素を感じる。だからこそ、ここから先をあんたが進むのは危険なんじゃないのか?」
そう言うとトゥナロは息を呑んだように口を閉ざす。
「例外はあったけど、今までだってあまりセフィロト内には入ろうとしなかったしな。ここともう一つのセフィロトって言うのは、特に音素の流れも激しい場所なんだろう? なら、”音素の塊に過ぎない”あんたが生きて出れるのか?」
「………どうして、そう思った?」
質問に質問で返されたが、ヒースはそれを咎めることはせずに答えた。
「そのライガの体に出入りしている。それ以上の理由なんて必要かよ」
普通に肉体がある生き物ならば、出来る筈がない。能力、と言われればそれまでだが、恐らく彼自身にそんな能力はないだろう。
それに、タリスの能力がトゥナロに使えた事もそうだ。あの能力はいくら何でも生きた者に使う物ではない。いや、トゥナロ自身は生きてはいるが、しかし───
「そもそもの話。あんた自身、グレイの記憶から生まれたんだろ。なら、あんた自身を構成している物はなんだってなった時、考えられたのはローレライの音素だった」
ルークが、イオンが、シンクが………そして、フィリアムが第七音素で出来ているように、ローレライの使者と宣う彼はきっと、記憶の持つ情報から今の形へと第七音素が構成されたのだろうと推測していた。
そんな彼が、星のツボと呼ばれる場所にいる事自体が危険だろう。況してや、アブソーブゲートは記憶粒子の収束地点だ。他のセフィロトと違い、膨大な音素の流れが出来ている筈。音素同士は引き合うとされているのだから、純粋な音素のみで構成されている彼が行けば、下手をすれば消えてしまう可能性があるのではないか。
ヒースの言葉にトゥナロは困ったように唸る。しかし直ぐに首を横に振った。
「流石にあんだけ音素に触れてたらそう考えるよなぁ。………だがまぁ、確かにお前の言う通り、オレは第七音素のみで出来ている。しかも音素同士の結びつきも相当に弱いときた。普段のままでいけば、ルークが超振動を使った時点で跡形もなく消えるだろうよ」
けどな、
「そうならない為に、こんな情けねェ姿になってるんだよ。悔しいが、こうでもしないと”オレ”は”オレ”でいられない。今はまだ、消えるわけにはいかないからな」
「それは、ローレライの願いが叶ってないからか?」
そう言うとトゥナロはそれもある、と返した。
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