A requiem to give to you
- 桜色は笑う(2/8) -



ルークのすぐ後ろをついて来ていたタリスは彼らと対峙しているシルフィナーレ、そしてネビリムを見て驚いた。



「フィーナ、それにあなたは……!」



言ってからハッとしてタリスは己の抱える縫いぐるみを見下ろす。メルビンは何も言わずに目の前の存在を凝視するだけだった。

ルーク達は武器を構え、敵を見据える。それを見てネビリムは声を上げて笑った。



「あっはははははっ! これは傑作だわ!」

「何がおかしいわけ!?」



アニスが皆の気持ちを代弁するかのように怒鳴る。ネビリムはそんな彼女達に「だって」とジェイドを見て目を細めた。



「”あの”ジェイドがこんなにたくさんのオトモダチを連れてくるんですもの」

「あんた、ジェイドを知っているのか?」



ルークが構えを解かずに問う。ジェイドがそれに何かを言う前に、ネビリムは誰もが驚くような言葉を紡いだ。



「忘れた事はないわ。だって、ジェイドは私を作った張本人ですもの。

















だーいすきな先生の命と引き換えに、ね」

『!!??』



彼女の言葉にレジウィーダ以外の仲間達がジェイドを見る。以前話に聞いていたルークとタリスでさえ、何とも言えずに彼を見るしかなかった。



「ジェイド………」



心配を露わにしたレジウィーダに名を呼ばれたジェイドは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、それから大きく息を吐くと頷いた。



「そうですね。私にとっては今直ぐにでも消し去りたい事実です」

「あら、つれない事を言うわね。私は貴方とサフィールに望まれて生まれたのよ」

「無差別に人を殺め、破壊を喜ぶような存在を求めてはいません」



そう言ってジェイドはシルフィナーレを見た。その視線は確かに怒りを含ませていたのには、誰もが気付いた。



「随分ととんでもない事をしてくれましたね。ディストと共に彼女を解放するだなんて…………コレの事を知っていると言うことは、彼女が封印される前に何をしていたのかを理解していた筈です」

「勿論です。彼女は音素を喰らいます。譜術を扱う者にとって、彼女を超える脅威はない事でしょう」



ですが、



「彼女は私の目的を成す為に必要な力を持っているのです。それを使わない手はありませんわ」



事実を知っている者からすれば、彼女のしている事がとても正気の沙汰とは思えないだろう。しかしそれがシルフィナーレのやり方だ。目的の為ならば、手段など選ばない。



「それにネビリムさんとは利害が一致している部分もありますから、お互いの望みが叶うのならば協力するのは当たり前です」

「そう言う事よ…………それで、」



と、ネビリムはシルフィナーレを振り返った。



「私としては、このまま全員相手にしても良いのだけれど、どうする?」



そう問われたシルフィナーレは少しだけ残念そうに首を横に振った。



「今は条件が悪いでしょう。下手をすれば私達も危険ですから、今回は顔見せが出来たと言う事でここは退きましょう」

「それを私達が許すと思って?」



タリスが弓を引きながら問う。そんな彼女に続くようにヒースも大剣を構えながら口を開いた。



「本当に、あなたはこんな事を続ける気ですか?」

「………………」

「過ぎる力は身を滅ぼす、とはよく言います。あなたがレジウィーダ達の力を得た事で、本当にあなたの望みが叶うとは思えない」



シルフィナーレは何も言わない。しかしその顔にはいつもの優しい笑顔はなかった。



「フィーナさん。思い出した今だからこそ言えるんだけどさ」



レジウィーダは構えを解くと真っ直ぐに彼女を見つめる。



「アリアさん。………あなたのお姉さんは、本当に死んでしまったのかな?」

「………何ですって?」



シルフィナーレは静かに瞳孔を開き、睨みつけるようにレジウィーダを見た。しかしそんな視線にも動じず、レジウィーダは続けた。



「前に地球にフィーナさん達が来た時、がむしゃら力を使って追い返してしまったけれど、あたし自身がアリアさんを大きく傷付けてはいないと思ったよ」

「ですがこの世界に存在できていないと言う事は、死んでいる事と同じです」



シルフィナーレは怒りを堪えるように両手を握り締め、絞り出すように言葉を紡ぎ続ける。



「私だって、ずっと………ずっと探したわ。預言を見たり、過去の経歴だとかも調べて、世界を巡って人に聞いたりもして………それでも、アリアの生きていると言う証拠は何一つとしてなかった」



当たり前よね、と彼女は皮肉に笑う。



「だって、貴女が消してしまったんですもの! 貴女の兄諸共、全部ね!」

「……………っ」



痛い所を突く。彼女の言っている事もまた事実で、レジウィーダは弁明はしなかった。そんな彼女を一瞥したシルフィナーレはタリスを見た。



「ねぇ、タリスさん」

「何よ」



タリスは毅然とした態度で返す。しかし先程の二人のやり取りの衝撃が大きいのか、その顔は血の気がなく、弓を引く手は震えていた。



「私、知っているんですよ。貴女がレジウィーダさんの兄を、他の誰よりも慕っていた事を」

「………………」

「だけど、その存在はもういない。貴女がどこまで事実を知っているのかはわかりませんが、貴女の大切な存在は…………紛れもない、レジウィーダさん自身がナイフで彼の心臓を貫いて殺してしまったんです」

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