A requiem to give to you- 願わくは、平和な世界で(2/8) -
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「ネフリーさぁーん! こーんにーちはぁー!」
深々と降り注ぐ雪が織りなす、どこか落ち着いた雰囲気とは真逆に元気な声を上げてレジウィーダは知事邸の扉を叩いた。建物の奥からはどこか慌てたような足音が聞こえ、それから直ぐにその扉は開かれた。
「レジウィーダ!? それにタリスさんも…………こっちへ来るとは聞いていなかったから驚いたわ。それに………」
言葉の通り驚いた様子でレジウィーダとタリスを見たネフリーは次いでフィリアム、それからシンクを見た。
「イオン、様ではないですよね……?」
「ふーん。流石あの死霊使いの妹だね。やっぱりわかるモノなの?」
自虐的に笑いながらシンクはそう言えば、ネフリーはどこか確信したように、しかし思い至った事実に悲しげに眉を下げた。しかしそんな彼女にレジウィーダは変わらぬ明るさでネフリーを呼んだ。
「ネフリーさん! シンクはイオン君の兄弟だよ。ルークもアッシュの兄弟だし、そこにいるフィリアムも、あたしの弟! 生まれなんて関係ないって!」
「いや、ボク別にアイツとは兄弟なつもりはないんだけど」
「細かい事は気にしない♪」
自信満々に兄弟論を語るレジウィーダに顔を顰めているものの、本気で嫌がっている様子はないシンク。そんな二人に触発されてか、ネフリーはやがて苦笑をすると小さく頷いたのだった。
「それで、今日は一体どうしたの? お兄さん達は一緒ではないようだけれど」
ネフリーに邸内に案内され、客室のソファへと腰を落ち着かせた頃合いを見計らって彼女はそう問いかけた。それにレジウィーダは今までの経緯をかい摘みながら説明し、遠くない時に来るであろうルーク達をこの街で待つ為に滞在させて欲しいとお願いした。
「正直、今ジェイド君達がどこまで降下の為の作業を進めているのかも、ここに来るのがいつになるのかもわからない。けど、今無理に動き回るには向こうの移動範囲が大き過ぎるんだ。迷惑かけて申し訳ないけど、お願いします」
「勿論、ただでとは言いません。私達に出来る事があれば仕事でも魔物の討伐でもお手伝いします」
レジウィーダに倣いタリス、それからフィリアムとシンクもネフリーへと頭を下げた。そんな四人にネフリーは考えるような仕草をし、それから直ぐにこちらを見据えると頷いた。
「わかりました。貴方達を受け入れましょう」
「ありがとう! あ、そうだ!」
そう言ってレジウィーダはいつも持ち歩いている鞄に手を突っ込むと、徐に何かを取り出しネフリーへと差し出した。
「これ、お土産!」
「これは……?」
戸惑ったようなネフリーの言葉にレジウィーダはニッと笑う。
「ウチの故郷で今度新発売するらしいお菓子なんだよね。こっちに戻ってくる前に食べたけど、結構美味しかったし、何よりこの世界じゃあまり馴染みのないお菓子だから、良かったら是非食べてみて♪」
「そうなのね。なら、ありがたくいただくわ」
そう言ってネフリーは今度こそ笑顔になると、「山吹製菓の新・たこ焼きパイ」と日本語で書かれた箱を受け取った。それから思い出したように声を上げると、レジウィーダを見た。
「お手伝い、ではないのだけれど」
「なになに? 何でも言って!」
ドンと胸を叩くレジウィーダにネフリーは苦笑して「大したことではないのよ」と言った。
「実は先日、サフィールが来たのよ」
「ディスっちゃんが?」
首を傾げるレジウィーダにタリスもあ、と声を上げた。
「そう言えば、前に飛行譜石を取られた後にダアトでディストから妙な手紙が飛んできたわよね」
「あぁ、確かにそんな事もあったね。って事は、マジでここで待ってた感じ?」
「あのアホなら有り得るだろうね。拘りだけは人一倍強いし。何なら本気でアンタ達が来ると信じて凍り付くまで待ってたんじゃない?」
「確かに……ディストならやりそう」
それぞれが好き好きに言う中、ネフリーは首を横に振った。
「詳しい事情はわからないけれど、今彼は街の病院で入院しているわ」
「凍傷? それとも風邪?」
「それが…………どうやら何者かに襲撃されたみたいなの」
え、とレジウィーダは固まる。予想外の言葉に他の三人も口を閉ざしてネフリーを見た。
「ここに運ばれて来た時は既に意識がなかったのよ。幸い、致命傷には至らなかったようで命に別状はないわ。意識も直ぐに戻ったしね。……ただ、何があったのかは、いくら問いかけても答えてはくれなかった」
「そう、なんだ」
「それにすごく落ち込んでいるの。まるで、先生や貴女がいなくなって直ぐの頃のようだったわ。………だから、と言うわけではないのだけれど、もし良かったら、彼の話を聞いてあげてくれないかしら」
そう言ったネフリーの表情は、彼を本当に心配しているのが見て取れる。どんなに変わり者だろうが、兄と敵対していようとも、やはり彼女にとってディストもまた、大切な幼馴染みなのだろう。その気持ちは、レジウィーダには痛い程にわかった。
だから、
「わかった」
と、レジウィーダは二つ返事で頷いた。
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