A requiem to give to you
- 知らない時間とぶつけた本音(2/7) -



以前にも、似たような事があった。一度目はこの世界に初めてきた時。二度目はユリアシティで彼が触れてきた時。そして今回、だ。



(オレとあんたに、何が起きてる………?)



今までの経験上、片方が変化すれば連動するようにもう片方にも変化が現れる。今は自分の様子を確認する事ができないが、今までの感じから、己にも何かしらの変化があるのではと警戒してしまう。

そんなグレイの様子にトゥナロは苦笑した。



「そう怖がるなって。別にお前の見た目に変化は起きてねーよ。今のところはな」

(誰が怖がるか! ……けど、今のところはって事はいずれは起きるって事だろ?)

「まぁ、そう遠くない未来には。ただ、下手をすれば一気に”コレ”は進むし、何もしなくても今のままでは緩やかに変化は訪れる」

(変化………)



まるでお互いの色が入れ替わるようなこの変化。ここまで来れば、嫌でもその条件は読めてくる。何せ目の前の男は本人も言う通り、元は同じ存在だ。ルークとアッシュ、レジウィーダとフィリアムのようなレプリカと被験者の関係とはまた訳が違う。



(つまり、あんたに近付けば近付くほど………引き合うって事か)

「そうだ。それに残念な事に、オレ自身はこの世界で得た身体が一度滅びているからな。今は普通の人間よりも脆いんだよ。だから余計にお前に引っ張られてる」

(一度滅びてるって、それはどう言う事だ?)

「説明が面倒臭いからそれはレジウィーダに聞いてくれ」



いや、逆に何であいつが知ってるンだよ。

そんなツッコミを内心入れつつ、しかしグレイは更なる疑問が浮上した。



(あ? てか、ライガに憑依している時はあんたの方からしょっちゅう近付いて来てたじゃねーかよ)



勝手に肩や頭に乗ってきたり、時には噛み付かれた事だってある。しかしその時にはお互いに何も起きてはいなかった筈だ。

それにトゥナロは言っただろ、と続けた。



「今のオレを構成しているモノはかなり脆い。ローレライの音素でなんとか形を保っているだけのようなモンだ。しかしライガは生物としての細胞組織も音素もしっかりとした生き物だ。そんなご立派な器に入っていれば、そりゃあ引き寄せられにくくなるよな」

(………じゃあ、文句言ってたけど寧ろそっちにとっては好都合だったンじゃねーかよ)



散々怒鳴り散らされた過去の彼の姿を思い出して呆れる。無理矢理詰め込んだのはこちらだが、しかしこれは逆に感謝されても良いのではないのだろうか。

しかしトゥナロにとってはそうではないようで、「冗談じゃねェ」と顔を顰めた。



「人間やめてまで長生きしたいなんて思わねーよ。お前達について来てたのは、その方が行動がわかりやすいからってだけだ」

(じゃあ、タリスの力が切れた今、あんたは……オレは、今後どうなって行くんだよ)



存在が、魂が引き合っている………と言うのはわかった。しかし現状、色味が入れ替わっている以外はよくわからない。しかし彼の話を突き詰めていくと、最終的にはどちらかがもう片方に吸収されてしまうのではないのか。そしてそれは、存在が危うい彼の方が消える……と言う事なのだろう。



(あんたは………───それで良いのかよ」



気が付けば、その言葉は己の口から紡ぎ出されていた。トゥナロはそれにフッと小さく笑った。



「”陸也”としては、ある意味喜ばしいのかも知れねーけどな。………まぁ、正直なところはオレにもわからない」



成るようにしかならないなら、今は後悔をしないように動くしかない。



「それにな、別に変化は色味だけじゃないぞ」

「何?」



どう言う事だとトゥナロを見る。彼は彼で「そこは気付けよ」と呆れたように見返し来て、それが何だか腹立たしい。



「この世界に来てから急に出来るようになった事があるだろうが」

「それって……特殊能力か?」



そう答えるとトゥナロは頷く。しかしグレイはどうにも腑に落ちなかった。



「けど、この力はこの世界に来た時に発現したモンだ」

「本当に、そう思うのか?」



グレイ、とトゥナロは真剣な眼差しでこちらを見る。



「お前、何故涙子のばーさんから《鍵》を預かったと思ってやがる。態々、テメェにしか使えない呪い(まじない)までかけて渡されたんだ。何の意味もなくないと………本当にそう思うのかよ」

「……………」



わかっている。意味がないわけなどないのだと。記憶がない分についてはわからないが、少なくともグレイが自身の能力によって起きた出来事や見てきた事。どうにも使い勝手が悪く、制御が仕切れていない現状。そして目の前の存在の今までの発言や、先程まで見ていた時間の欠片。



「オレは」



と、グレイはそう口にする。



「オレは、自分の能力は《過去の記憶の読み取りと操作》だと思っていた」



だけど、どうやらそうではなかったようだ。先程見たあの分岐された先の時間は………まさしく己が起こした能力によって見えたのだろう。そしてそれが出来るようになった───否、その力がトゥナロから還元された事で無意識に発動した、と言うのがグレイの出した答えだった。
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