A requiem to give to you
- 未来が夢見たモノ(2/7) -



そんな二人に遥香は苦笑し、シンクは呆れ顔だった。



「もう、何やってるのよ」

「ちょっと、くだらない事をしてないでさっさと用事を済ませない?」

「ごめんごめん。って言うか、シンクは買い物よりも早くフードコートに行きたいだけだろー?」



謝りつつも宙がそう言うと、シンクは「当たり前でしょ」と鼻で笑った。



「折角ただで色々と食べられるんだ。食べられる時にたくさん食べておかないと損でしょ」

「シンク君、君もそれおばちゃん臭いわぁ………ゴホッ!?」



全く懲りる様子もなく言った睦に今度はシンクの拳が彼を襲う。流石に戦闘経験もない一般人相手だからなのか、それとも単純に面倒事を避けたかったのか力は大分加減しているようだ。それでも大分痛かったのか、睦は殴られた腹を抑えながら悶えていた。



「うおぉ………自分容赦ないわぁ……」

「フン、それだけ喋れるなら大丈夫だろ。……とにかく、早く買い物を済ますよ」



そう言ってシンクが遥香と宙を促すと二人も頷いて必要品の売っている場所へと歩き出す。



「え、ちょ!? 置いてくなや〜!」



そんな三人の後を睦は慌てて追いかけ、それから四人は日用品を買い揃えて行った。

何だかんだで周りの様子が気になったシンクを睦が茶化しつつも、一通り買い物やらウインドウショッピングを楽しんだ後は、お待ちかねのランチタイムだ。こっちの世界では有名なファーストフードやアイス、クレープ、ドーナツなどのスイーツ系。中華、卵料理など…………宙達は好きな物を選びながら食べたい物を買い、空いている席へと座る。



「シンクー」

「何さ」

「予想はしてたけど…………よく食べるねー」



クレープ片手に引き気味に言った宙の横に座るシンクの目の前には、最低でもフードコート内の店の料理が一品はあるだろうと言った具合に大量の料理が並べられている。そのあまりの量に後から戻ってきた遥香と睦もあんぐりと口を開けて呆けていた。



「そんなに頼んじゃって、食べ切れる?」

「こりゃまたえらい量持ってきたなぁ。君、意外と大食いなんやな」

「お母さん、その心配は多分無用だよ。てか、こんだけ色々とあったら動画配信の企画だと思われそうだよね」



いつの時代も、この手の企画は流行りやすい。彼としてはただ食べたい物を食べているだけではあるが、何にせよ既に近くを通りかかる人がギョッとした顔をしているのもあり、このままでは間違いなく目立つだろう。



(まぁ、だからと言って誰かに何かされるわけでもないし………シンクが楽しんでるなら、いっか)



それから宙達は満足するまでランチタイム(寧ろ買い物よりメインだったのでは?)を楽しみ、車に乗って家へと帰った。買った荷物を皆で下ろし、家の中へと運んでいると、唐突に遥香が声を上げた。



「あちゃー………やっちゃったぁ」

「え、どうしたのお母さん?」



宙が問うと、遥香は肩を落としながら「買い忘れたわ」と言った。



「お客さん用の布団をね。ほら、昨日は急だったからソファとかで小さなブランケットをかけて寝てもらったでしょ? 今後の事も考えて数はあった方が良いと思って買おうとしていたのよ」

「そうだったんだ。それじゃあ、もう一回買いに行く?」

「いや、付き合わせちゃうのも悪いから私一人で行ってくるわ」



宙の申し出を断り、遥香が再び車に乗り込むと、荷物を置き終えた睦が遥香に声をかけた。



「あ、おばちゃんちょっと待って。流石に寝具系を一人で運ぶのは大変やし、俺が付き添うで!」

「けど、悪いわよ」

「大丈夫大丈夫! 寧ろおばちゃんに何かあったら博士に申し訳ないわ。だからここは手伝わせてや」



な、とウインクをする睦に遥香は苦笑すると「ならお願いね」と返した。



「じゃあ宙、シンク君。お留守番よろしくね」



そう言って二人を乗せた車は家を離れて行った。それをシンクと共に見送ると家の中へと入り、靴と上着を脱いで適当に飲み物やお菓子をリビングのテーブルに出した。



「買い物お疲れー。どうだった?」



ソファに座り、対面に座って早くもお菓子に手が伸びるシンクにそう問う。彼は暫し無言でお菓子を咀嚼し、それからゆっくりと飲み込むと口を開いた。



「なんか、人が多くて騒がしかった」

「あはは、まぁそう言う場所だからね。でも、ああ言う感じの場所は向こうにはないから新鮮だったっしょ」

「………どうだろうね、正直興味がないよ」

「なんて言う割には色々と見てたし、めちゃくちゃフードコートを楽しんでたじゃん」



先の出来事を思い出し、思わず顔がニヤける。そんな宙の様子にシンクが不機嫌そうに顔を顰める。



「別に楽しんでない………………けど、」

「けど?」

「料理はまぁまぁだったよ」



それはシンクなりの高評価と言う事だろうか。結局あの大量の料理はしっかりと彼の腹の中に収まったのだから、そう言う事にしておこう。

宙は手元のコップに注いだジュースを飲み終えると立ち上がる。



「さて、と。あたしは一度部屋に戻るよ」

「あっそ、どうぞご勝手に」



シンクはそう言ってお菓子を持つ手とは反対の手をノールックでヒラヒラとさせた。それに宙は苦笑を漏らしつつもリビングを後にした。
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