A requiem to give to you
- 光を信じて(2/7) -



普段とは違うヒースのその剣幕に、三人は怯む。己の拘束が緩んだ隙を見逃さず、素早くガイを振り解くと怒りで荒くなる息を整えるように大きく深呼吸をした。



「……僕は三人、いや四人を探しに行きます。皆は時間がないので直ぐに譜陣を直して脱出して下さい」



ルークはハッとすると首を横に振って叫んだ。



「! そんな事出来るわけないだろ!? お前までいなくなったら……!」

「じゃあ! このまま、大人しくしてろって言うのか? お前とタリスが、ティアと共にマルクトへ飛ばされた時のように!」

「え………?」



あの時も、目の前で手を伸ばしたタリスの手を掴むことが出来なかった。その後二人を探しに行きたくても、待っていろと言われた。

最終的にはフィーナに半ば強制的に放り出される事にはなったが、それがなければ何ヶ月もの間、指を咥えて待っているだけになっていた事だろう。もしもそんな事になっていたのなら、きっと気持ちが耐えられなかった事だろう。



(だから今度も、何もわからないのにその場に立ち尽くしてはいけないんだ───)



例え、もうこの世界で出来た友人達に会えなくなるとしても、彼女達を失ったとなれば………今度こそ、もう元には戻れないだろう。



「ヒース」



静かに、そんな声が割って入ってきた。目の前の三人とは違う、落ち着いたそれはジェイドのものだった。



「ただでさえギリギリなのです。これ以上輪を乱す行為はやめて下さい」

「大佐、アンタがそれを言うのか。あんただって散々引っ掻き回してきた癖に……こんな時ばっか大人ぶってんじゃねーよ!」

「では、皆で仲良く地核に沈みますか?」



シンクの思惑通りに。



「そうなればここまで我々を送り出してくれたイエモンさん達の苦労も水の泡ですし、何より……

















誰も帰って来ないと知ったグレイはどう思いますか?」

「───っ」



その言葉に言い返す言葉なんて、なかった。

可能性だって、考えていないわけでもない。レジウィーダやタリス達に何かあるのも勿論だが、ルーク達に対しても最近は少しずつ仲間としての意識が芽生えているのは気付いている。一度懐に入れたモノは大切にする彼が、そんな仲間でさえも失ったと知ればどう思うか、なんて………わかり切っている。

でも、



「……じゃあ、どうしたら良いんですか」

「今は、自分達が生きて地上に戻る事を考えなさい。少しでも、彼女達が生きていると思っているのなら……ね」



そこまで言うとジェイドは話は終わったとばかりにヒースから背を向け、それからルークとティアを見た。



「艦壁は削れてしまいましたが、幸い甲板自体はそこまで傷付いてはいません。ですが本当にもう時間がないので、ルークとティアにも譜陣の描き直しを手伝って頂きます」

「お、おう」

「わかりました」



二人は頷き、直ぐに作業に取り掛かった。



「ヒース」



三人が譜陣を描き直しているのを黙って眺めていると、ガイが声をかけてきた。



「お前がタリス達を大切に思うように、俺達だって大切な仲間だって思ってる」

「わたくしも」



と、ナタリアも伏し目がちに口を開いた。



「先程は無責任な事を言ってごめんなさい。ですが、待つ辛さと言うのは……よくわかりますの。だからこそ、今は生きて帰って。それから絶対にまた三人を探し出しましょう」



待つ辛さ。そう言えば彼女も、ルークがいなくなってからの数ヶ月はずっとバチカルで待っていた事を思い出す。きっと彼女もその性格的に直ぐにでも飛び出していきたかった事だろう。しかし彼女は文句を言いつつも王女として、己の婚約者を信じて待っていた。アクゼリュスの時とは違って、下手に敵国の王族が何人も飛び込んではいけないと、わかっていたから。



「僕は…………」



そんな彼女に比べて、己のなんと情けない事か。周りに怒鳴り散らして、迷惑をかけて、これでは何も……



(あの頃から、変わってないじゃないか)



思わず拳を握り締める。本当は、先程の事を直ぐにでも謝らなければいけない事もわかっている。しかし気持ちの整理がつき切れない今、その言葉を仲間達に伝えることは叶わないまま、ジェイドから譜陣を描き終えた声が聞こえてきた。



「皆さん、急いでアルビオールへ───」



仲間達が頷いて、足早にアルビオールへと乗り込もうとした時だった。
















───我が声に耳を傾けよ! 聞こえるか、我と同じ存在よ!



「!?」



突然、頭の中にそんな声が聞こえてきた。次いでルークが頭を抑えて唸り出す。



「うっ!? ……この声、アッシュ……いや違う、この声は……?」

「ルーク、大丈夫? 今、癒せないかやってみるわ」



どうやらアッシュではないようだが、何やら……聞き覚えがあるような気がした。

ティアはルークに近付き、治癒術をかけ始める。すると再び声が聞こえてきた。



───ユリアの血縁か! 力を借りる!



「ティア!?」



声の後、突如光がティアを包んだかと思いきや、彼女の体は淡い光を放ちながら浮かんだ。ヒースや仲間達も、そして頭痛が引いたルークも驚きに彼女を見る。

ティア(?)はルークを向くと口を開いた。



『ルーク。我が同位体の一人。漸くお前と話をする事が出来る』

「ティア……?」



声はティアの物だが、彼女から出る気配はまるで別人だ。ルークが訝しげに彼女の名を呼ぶと、それは首を緩く振った。



『私は、お前達にローレライと呼ばれている』
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