A requiem to give to you- 逆位相の交響曲・前編(2/8) -
「言われてみれば、確かにそうかも……?」
「でもそれって、別に定められていたわけじゃないのよ。私達は確かにローレライから喚ばれたらしいけど、でもそれは預言にはなかった事だもの」
「て、言うかぶっちゃけると今回の場合はあたし以外は割と事故みたいなもんだよねー。巻き込まれただけって言うかなんて言うか」
タリスの言葉にレジウィーダがそう補足を入れる。それにピオニーがどう言うことだ、と問うとレジウィーダは「あなたはある程度察しているかもですけど」と一つ前置いて説明した。
「元々はあたしだけだったんですよ。けど、何か最初から色々と手違いがあった上に失敗しちゃったんですよね。しかもその事すら忘れるレベルに記憶まで紛失して」
「それは、」
それにジェイドが何かを言いかけて、続きを打ち消すようにレジウィーダは続けた。
「……まぁ、これはあたし自身が油断していたのもあると思うので、他の誰が悪いとかないので気にしないでもらって。……寧ろ、今回の事で再び挑戦するチャンスを得たし、何よりも皆と会えたし弟だって出来た。そう思うと今のこの時代に来れて良かったなって思うよ」
「姉さん……一々こっちを見て言わないでよ」
嬉しそうにそう言って向けられた姉の言葉にフィリアムはどこか照れ臭そうに顔を逸らした。それにレジウィーダも「えへへ」と笑った。
グレイが話を戻すようにとにかく、と切り出した。
「オレ達のいた世界とここ(オールドラント)との違いをまとめるなら、まず一つに預言がない事だ」
「譜術や音素もないわね。その代わりにここで言う音機関……こちらでは科学と言うものが発展しています。ルークにあげた携帯電話もその一つよ」
「僕達の世界では、それ一つあれば広い意味で何でも出来ますからね」
「例えばどう言う事が出来ますの?」
ナタリアが問う。
「買い物、通信会話、映像配信、写真撮影、音楽再生。他にも絵を描いたり、音楽やゲーム、漫画、小説など様々なコンテンツが自由に作れます」
「後は色々な身近なものから世界の情報まで調べられるわねぇ。流石に国家機密みたいなのは普通には見れないけど」
「無理矢理見れる人もいるけど、それは流石に犯罪になるからね」
「なんか……そうやって聞くとかなりヤベェ。つーか、これお前ら一人ずつ持ってるんだよな?」
ルークがポケットから取り出した携帯を見ながら恐る恐るそう言うと、グレイが頷いた。
「オレ達の世界じゃある程度の年齢が行くと殆どが所持するようになる。寧ろ、これよりももう少しデカい端末を学校の授業で使うくらいだしな」
「ただ、勘違いしないで欲しいのが、全部が全部皆が出来るわけじゃないですよ。何かを作ったり、情報を扱うにもそれなりに知識も技術も必要になります。大体の人は買い物や通話機能を中心に使って、提供される娯楽を楽しんだりするのが主ですから」
「てか、世界中の皆がそんなヤバイ事出来る様になっちゃったらそれこそモラルも何もなくなるよね」
「まぁ、一部界隈では既になくなってるところもあるけどな」
レジウィーダの言葉にヒースが皮肉げにフッと笑う。しかしピオニーやインゴベルトは何かを考えるように腕を組んだり顎に手を当てたりしていた。
「しかし、科学………と言うのもなかなかに興味深いな。その携帯と言うのも一般流通まで行かなくとも、国で幾つか所持しているだけで色々な事が大分楽になりそうだ」
「元のエネルギーが違う故、どこまで再現が可能かはわからぬが………今ある技術でも近い物は作れそうではあるな」
「いやいやインゴベルト殿、寧ろ技術の発展と進化になり得るだろう。この技術、是非とも取り入れたいとは思わないか?」
ピオニーがそう言うと、インゴベルトも深く頷く。それから二人はレジウィーダ達を向いた。
「なぁ、宙。その携帯電話ってのは、一つ譲ってもらう事は出来ないか?」
「はぇー……流れ的に何となくそう言われると思ってましたけどね! ただ、タリスのはルークにあげちゃってるし、こいつ……グレイのはフィリアムにあげてるから」
「そう言う意味ではダアトとキムラスカには既に一台ずつ提供しちゃってるんだよな。二人が研究の為にそれを今後国に提供するかはわからないけど」
レジウィーダに続きヒースがそう言うと、ピオニーが羨ましそうに両手を振った。
「ず、ずるいぞ! ここは公平を期して俺にもくれ!」
「陛下……マルクトにも、ですよ」
「「いや、どっちも同じですって」」
子供のように宣う自国の王にジェイドがツッコミ、そんな彼の言葉にレジウィーダとヒースも更にツッコミを入れた。
それからレジウィーダは困ったように鞄から自分の携帯電話を取り出した。
「一応、あるにはあるんですけど………バッテリーがダメになっちゃって壊れてるんですよね」
「それ、直るのか?」
「元の世界に戻れば直せないこともないですけど、それをするくらいなら買い替えた方が早いし楽ですね」
この手の機械はドンドン新しい物が出てくるが故、ある程度の年数を使えば十分なのだ。それに古い世代になるのが早い分、取り扱われなくなるのも早く、修理するには手間も時間も費用だってかかる。
それを説明すると、ピオニーは今度はヒースを見た。
「じゃあ、ヒースのは」
「謹んでお断りします。僕、アレでやってる事が多いので無くなると非常に困るんですよ」
「……………………」
ヒースは間髪入れずにバッサリと断った。それを聞いてグレイがボソリと何かを呟いた気がするが、誰の耳にも入る事はなかった。
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