A requiem to give to you- 取り戻した音(2/10) -
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タタル渓谷でセフィロトの測定を終え、トゥナロを回収してから一行は再びシェリダンへと戻ってきた。
ルーク達が集会場へ入ると、イエモン達は直ぐ様奥の作業場から飛んできた。
「おお、よく戻ったの!」
嬉々として迎え入れてくれているそれは自分達を心配してくれているのもあるのだろうが、一番の目的はルークの持つ測定器なのは明白だった。ルークは苦笑しながらもそれを差し出すと、奪い取るようにしてあっと言う間に持ち去られた。
そんなイエモンと入れ替わるようにしてタマラがやってきた。
「こっちは今、タルタロスを改造しているところさ」
「タルタロスを?」
ジェイドがそう問うと、タマラは得意げに笑った。
「あの陸艦は、魔界に落っこちても壊れなかたほど頑丈だろ? 地核に沈めるにはもってこいなんだよ」
「タルタロスは大活躍ですねぇ」
「そうだね。けど、旅でお世話になってた分、ちょっと寂しくはあるね」
ジェイドの言葉にレジウィーダがそう言うと、彼女よりも乗ってきた時間が長いイオンも「そうですね」と頷いた。
そんな彼らを見ながら、タマラはルーク達に言った。
「それよりも、作業にはまだ時間がかかると思うから、暫くは街でのんびりと過ごしてきたらどうだい?」
確かにこの場にいて自分達が出来る事もない。下手にいても邪魔になるだろうとルーク達は一度集会場から出た。
「それにしても、地核振動停止にタルタロスを使うんですね〜」
アニスがそう言うと、ジェイドも「そうみたいですねぇ」と返した。
「元々軍艦ですが、戦争で使うよりも有意義な使用法かも知れません」
「人を殺す艦が、転じて世界を救う物になるなんて、想像もつかねーだろうな」
「言えてる」
ジェイドの言葉にグレイとヒースもどこか感慨深い様子だ。
「ま、何にしても上手く行くと良いわねぇ」
「ノンノン、タリス。上手く行くと良い、じゃなくて……絶対に上手く行くんだよ♪」
「レジウィーダの言う通りです。必ず成功させなくてはいけません。大地を降下させても、それだけでは人々は生きてはいけないのですから」
「ええ、わかっているわ」
タリスは大丈夫よ、と強く頷く。
その横では、ルークが何やら考え込んでいた。それに気が付いたティアが彼に声をかけると、ルークは皆に向かって「あのさ」と口を開いた。
「ずっと、考えてきたんだけど………外殻降下の事、俺達だけで進めて良いのかな?」
「ん? どういう事?」
アニスが首を傾げると、ルークは続けた。
「これってさ、世界の仕組みが変わる重要な事だろ? やっぱり叔父上とか、ピオニー陛下にちゃんと事情を説明して協力し合うべきなんじゃないかって、思ったんだ」
「……ですが」
と、ナタリアが表情を暗くする。
「その為には、バチカルに戻らなくてはなりませんわ」
「戻るべきなんだよ」
ルークはそう言ってナタリアを向いた。
「街の皆は、命懸けで俺達を………ナタリアを助けてくれた。今度は俺達が皆を助ける番だと思う。ちゃんと叔父上を説得して、有耶無耶になっちまった平和条約をちゃんと結ぼう」
「ルーク……」
「それでキムラスカもマルクトもダアトも協力し合って、外殻を降下させるべきなんじゃないか?」
それにナタリアはハッと目を瞠る。黙って聞いていたタリスは彼の言葉に同意した。
「確かに、世界を動かすんですもの。各国の中心人物達こそ把握していなければ、降下が終わった後に混乱してしまうわね。そこから余計な諍いに発展するくらいなら、当初の目的通りに和平を結んでしまった方が、後々に良いわ」
皆はどう思う、と彼女が仲間達を見ると、誰も反対をする者はいなかった。それからタリスがナタリアを見る。
「ナタリアは、行けそう?」
「わたくしは…………少しだけ、考えさせて下さい。それが一番なのはわかっていますわ」
でも、
「まだ、怖い。お父様がわたくしを…………拒絶なさった事。………ごめんなさい」
そう言って耐え切れずに走って言ったその背を、誰も追う事は出来なかった。ルーク達は顔を見合わせ、ジェイドは首を横に振った。
「ナタリアが決心してくれるまで、待つしかありませんね」
そんな彼の言葉に、ルーク達は頷いた。
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それからは各自自由に行動する事になった。最初に来た時はじっくりと見る暇がなかったのもあり、ルーク(+ミュウ)とヒースは目を輝かせたガイに連れられてどこかへと行き、ティアとアニス、それからイオンも近くの店を見て回ると言って離れ、ジェイドは先に休むと言って宿に戻った。レジウィーダはトゥナロとタリスを誘って美味しい物を探しに行き、最後に残ったグレイは………
「デケェ……」
とある家にお邪魔していた。彼の目の前には言葉の通り、巨大な自鳴琴が置いてあった。
最初に来た時から妙に気になっていたこの家、近づいて見れば何やら聞き覚えがあるようなないような、不思議な音色が聞こえてきた。特に知っている曲と言う訳でもないのだが、どうしてか惹かれて止まずについ扉を叩いてしまった。
中から出てきた家主に思った事をそのまま伝えると、快く中へと案内してくれてコレと対面したわけだが……。
「つい最近までは使い方が全くわからなかったんだけど、ダアトの業者から音盤を買ってね。そしたら丁度この譜業に嵌まったんだよね」
試しにハンドルを回したら音が出たってわけさ。
そう言って笑ったのはこの家の主人であるイシターだった。何だか今の説明に彼の性格の軽さを窺えなくもなかったが、取り敢えず壊さなければ好きに見て触っても構わないと許可を出すと奥の部屋へと引っ込んで行った。
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