A requiem to give to you
- 這い寄る屍鬼(2/10) -



だってそれは、レジウィーダ自身がそうだからだ。全く同じような思想を持っていると言うわけではないが、たくさんの人に笑顔になって欲しいと願うそれに、とても良く似ているような気がした。

ただ一つ異なるのは、パメラは心の底から”人”という存在を愛していると言う事だろうか。自分のしている事が誰かの救いになると本気で信じている。生きる希望を他者に押し付けている己と、そこだけは全く違う。

でも、それが少し羨ましくも感じた。だからこそ、レジウィーダは今日タトリン夫妻に会ってから感じた事を、思いを伝える事にした。



「パメラさん」

「なあに?」

「あなたも、オリバーさんも本当に素敵な人だと思います。困っている人がいたら放っておかない、優しくて正義感溢れる素晴らしい人だ」



だけど、



「それでアニスは、幸せなんですか?」

「え?」



どういう事、と言いたげに首を傾げるパメラにレジウィーダは続けた。



「あたしの知っているアニスは、世渡りも料理も買い物もとっても上手なんです。13歳なのに、導師を守れるくらいに逞しくて、自分よりも歳上だろうと果敢に立ち向かって行きます。けど、13歳……なんです」



そう言ってレジウィーダは自分達の世界の事を思い出す。



「13歳って言ったら、友達と遊んだり、勉学に励んだり、趣味を見つけて楽しんだり、夢を見つけたり……と様々な事に挑戦する時期だと思うんです。確かにこの世の中ですから、アニスと同年代の軍人だっています。だけど、そもそも何で軍人なんて道を選んだんでしょうか?」



別に戦争をしに行くわけでもない。だけど時には武器を手に国や人を守るのが軍人だ。それはダアトだって同じで、軍人であればそこに年齢なんて関係ない。

導師守護役だなんて確かに名誉な役職だ。譜術にも長けていて、身体能力の人並み以上で、物事への理解力だってある。軍人としての能力は申し分ないのだろう。だけどそれは、本当に彼女自身が望んだ道なのか。



「私の生まれ故郷もそうなんですけど、軍人って………凄くお給料が良いらしいですよ」



それこそ、身を粉にして畑を耕すよりも何倍も。でもその代わり、命の危険が伴うのもこの職業の特徴だ。



「厳しい訓練を受けて、上からめっためたに言われて。先輩達にも意地悪されて。いざ戦争や諍いが起きたらその身を国に捧げる。名誉だろうけど、それをする事はアニスにとって幸せと感じる事なんでしょうか?」



命を預ける分、そこに入るお金はかなりの物になる筈だ。レジウィーダ自身も戦闘兵ではなかったが、それなりに入っていた。十代の子供でも、家族を養うことなど容易な程の額は年単位ならば全然余裕だろう。

だけど彼らの生活は苦しいままだし、アニスは常にお金に目がない。それこそ、好きでもない貴族の玉の輿を狙うくらいに。教団に住み込みで働いているのだから、最低限の補償はされているとしても、あの部屋を見て思ったのはパメラ達は本当に最低限の生活をしているのだと思った。娘がかなり良い役職を持ってるのに、あの貧相な生活はあり得ないのだ。事情を知らないレジウィーダでさえ、ある程度の察しがつく程、この異常な状態を感じずにはいられない。



「あなた達家族の事情はわからないけど、アニスが何でそう言うのかとか、何を本当に望んでいるのかとか………もっと考えて上げてくれませんか?」

「アニスちゃんの、望み?」



うん、とレジウィーダは頷く。



「さっき、パメラさんが怪我をした時にアニス、泣いてました。あなたの目が覚めて、怒っている時でさえ、涙が抑え切れていなかったの、見ましたよね」



あたしも、同じなんです。



「あなたの言う通り、アニスは友達だとあたしは思っています。あなたに何かあればアニスが悲しむ。そんなあの子を見るのは、辛いです」

「…………」



その言葉に今度はパメラが口を閉ざす番だった。



「アニスにとっての母親はあなたしかいません。父親もオリバーさんしかいません。だから………もっとご自身を大切にしてあげて下さい」



言いながら、レジウィーダは幼馴染み達を思う。きっと、彼らはこんな気持ちなのだろうな、と。

それに苦笑を漏らしながら、レジウィーダは立ち上がる。



「パメラさん、庇ってくれてありがとうございました。あなたが無事で、本当に良かった」

「レジウィーダさん……」



見上げるパメラに、いつものレジウィーダらしい元気な笑みを浮かべる。



「今は大変な時期で難しいけど、色んな事が落ち着いて、今度アニスが帰ってきた時は…………他の誰でもない、アニスの為に何かしてあげて!」



きっと、凄く喜ぶと思うから。

そう最後に告げると、パメラの返事を待たずにレジウィーダは医務室を後にする。それから先に行った仲間達を追おうとして、二人ほど廊下にいた事に気が付く。向こうもこちらに気付いたのか、見ていた何かの資料を手にこちらに歩いてきた。



「おまいう、ってやつだな」

「やかましいわ」



皮肉げに言われた言葉に不貞腐れながらもそう返すと、もう一人が首を傾げた。
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