A requiem to give to you
- A score that spells hope・前編(2/7) -



「僕から見ても、陛下のあの態度は決して絶望的ではないと思います。今は難しいかも知れないけれど、必ずチャンスは訪れる………それまでは、絶対に諦めちゃ駄目ですよ」

「まぁ、それでも………もしも本当に無理だって思ったらさ。いっその事マルクトに来て暮らすのはどうだい?」



ガイがそう言うと、タリスがニヤリと笑った。



「あらガイ、それはつまりプロポーズかしら?」

「え?」



タリスの言葉にアニスも同じ表情を浮かべる。



「あ、確かにー。ガイはマルクト貴族だもんねぇ♪ 『君一人を養う事くらいお安い御用さ!』って? あー、言われてみたいなぁ。そんな言葉」

「いや、そこまでは言って………」



何だか誇張されていく話題にガイが焦り出すと、グレイがポンとその肩を叩いた。



「まぁ、取り敢えず真っ先にアッシュに殺されると思うけど、仕方ないから骨だけは拾ってやるよ」

「だから話を勝手に進めるなぁっ!!」



それに勝手に殺そうとしないでくれ、と慌てて両手を振る彼に成り行きを見守っていたナタリアに小さな笑みが浮かんだ。



「ガイったら………その時はわたくしも是非協力いたしますわ」

「それってどっちの事!?」



堪らずツッコミを繰り返すガイに仲間達から笑いが漏れる。ナタリアも、少しは気が紛れたのだろう。先程よりは幾分か顔色も戻りつつあり、ルーク達は内心ホッとしていた。

そしてアニスが「そう言えばさ」と声を上げた。



「アッシュに助けられてからタリス達を助けに行ったら、レジウィーダとグレイがいてビックリしたんだけど!」



アニスの言葉にジェイドも頷いた。



「ええ、グレイとレジウィーダの合流の可能性はあったとしても、我々がバチカルに連行されてからそれほど時間が経たない内に貴方達も来た事になりますが………いくら何でも早過ぎませんか?」



何をしたんです?

ジェイドの問いにレジウィーダは何かを思い出したのか、言い辛そうに視線を泳がせる。そんな彼女にグレイは半目になってその頭を小突いた。



「別に隠す事もねーだろうよ。言ってやりゃあ良いじゃねーか……アッシュの乗ってきたアルビオールに激突して無理矢理相乗りしてきたって」

「「マジで何してんだよ」」



思わずルークとヒースのツッコミが被る。しかしそれは当事者以外の者達も同じ気持ちのようで、説明を求めるように二人を見つめた。



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数時間前のダアト港。レジウィーダ、グレイは一つの小さなボートを前に頭を悩ませていた。


『船が出てないから定期船も連絡船も使えないってのは聞いていたけど、それでも何とか一隻確保出来たねー』

『エンジンも何にもない、普通のボートだけどな』

『当然だがオレはオールを漕ぐのは不可能だからな』



二人について来ていたトゥナロの言葉にグレイは「期待はしてねーよ」と一蹴した。

ダアト内で幸いにも合流を果たしていたレジウィーダ、グレイ(+トゥナロ)はイオンより事情を聞かされ、先に向かったアッシュを追うべくここまで来て、その場にいた漁師から無理を言って今は使用していないボートを貸してもらった。しかし肝心のアッシュはどうやら自分達が使っている物とは別機体のアルビオールで移動をしているらしく、またキムラスカまでの距離を考えこの先の不安を拭えなかった。



『つーか、こんなボートで何日かけて行けってンだよ』

『寧ろそんなに時間をかけてる間に色々と間に合わなくなりそうだよな。着いた時にはあいつら、首だけになってるかも知れないぜ?』



不謹慎極まりないが、事実でもある為咎めることも出来ない。しかしこうして悩んでいる間にも時間は過ぎていくのだ。

こう言う時はアリエッタの魔物を頼るべきなのだろうが、運悪く彼女はグレイがダアトに来る前には任務で外に出てしまっている。流石に彼女に無断で魔物を使役する事は出来ず、また連絡を取っている時間もないのでどうする事も出来ない。



『こう言う時、携帯がないのって不便に感じるぜ』

『ない物ねだりだな』

『違いねェ。……ンで、どうするよ?』



グレイは黙ってボートを見つめ続けるレジウィーダに問う。その問いには直ぐには答えずにもう暫く考えていたレジウィーダは、途端にポンと手を叩くと目を輝かせた。



『うん! 良い事思いついた!』

『『………………』』



こう言う時の彼女は大抵碌な事を言わないのは経験上わかってはいる。しかし今は藁にでも縋りたい状況な為、グレイとトゥナロは一度だけ目を見合わせた後、内容を聞くことにした。



『一応聞くけど、何だよ』

『フッフッフッ………それはだねー。

















ボートに風魔術を利用して超特急しながら進む作戦じゃー♪』



その後は渋々と彼女の提案に乗り海上を爆走していたのだが、アッシュがいるであろうアルビオールを見つけた瞬間にレジウィーダが出力を誤った事によりボートが何故か浮き出し、そのまま物凄い速度でアルビオールへとダイレクトアタックをしたのだった。
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