A requiem to give to you- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(2/11) -
「カイツールでうっかりミュウを踏んずけてひっくり返っちゃってさー。そのまま寝ちゃったみたいで次に起きたらライガに咥えられたままここにいたんだ」
「なんじゃそりゃ……」
あまりにも間抜けな話に脱力しながらも、ふとグレイはその内容に違和感を覚える。
「ん? つー事はお前をここに連れてきたのはアリエッタって事か?」
「うーん……それがアリエッタ達曰く、この城の入口で倒れてたらしいんよ」
だから誰が自分をここに運んだのかわからないと言うレジウィーダ。ならば居なくなる前はどこで何をしていたのかを問うてみると、途端に彼女は口を閉ざした。
「……………」
「……どうした?」
「あー……いやね。うーん………」
不思議に思って訊いてみるも、どうにも歯切れが悪い。基本的に思った事はストレートにぶつけてくる彼女にしては珍しい事で、グレイは大人しく答えを待ってみる事にした。
「……………」
「……………」
「…………………………………あのさ」
暫し思案の表情を浮かべ唸っていた彼女からやっとの思いで絞り出したかのように言葉が紡がれる。
「アンタってさ、タリス…………涙子の事好き?」
「………?」
何故今の流れからそこに行くんだ、と突っ込みたかったがそこは何とか耐え、グレイはレジウィーダの質問の意図を考えつつも「まぁ」と言って返事を返す。
「好きじゃなければ、今日までこうして一緒にいる事なんてないだろ」
「じゃあ、聖も?」
もう一人の幼馴染みの名前を出され、そこで漸く"好き"の意味がわかったグレイは素直に頷いてみせた。
「そうだな」
「ふーん……………なら、ルーク達は?」
「あいつら? あいつらは……別に嫌いではねーわな」
一緒にいて詰まらなくはないし、と答えるとレジウィーダは「そっか」とだけ返して背を向けた。
「って、オイ。結局オレの質問はスルーかよ」
もしかして流されたのかと思ってそう言うと、レジウィーダは少しだけ振り返ると首を緩く振った。
「無視なんかしてない。………考えてたんだよ。どうしたら皆が幸せになれるのかってのをね」
そう言ってレジウィーダは静かに笑う。それにグレイはいつしか彼女が"イオン"の墓前で言っていた事を思い出した。
「お前、まだ預言を覆そうとか思ってるのか?」
問い掛ければ直ぐ様帰ってくる肯定を示す返事。それからレジウィーダはどことなく嬉しそうに話し出す。
「あたしはこの世界が好きだ。この世界に生きる人達も、ね」
旅に出てから、より多くの人々と関わり持つ事が出来た。確かにそこには預言が付いて回っていたけれど、それは信仰ばかりではない。イオンのように、預言によって苦しめられている人もいるし、理不尽だと嘆く人もいる。他にも抗おうとまではいかないにしても、過ぎてしまった運命を受け入れた上でしっかりと更なる未来を見据える者もいたのだ。
「誰もが幸せになれるだなんて思ってない。自分の気付かない所で泣いてる人だっているかも知れない」
それでもさ、と言ってレジウィーダは続ける。
「あたしが好きな人達が笑ってくれるなら、気付いた分だけ頑張りたいって思うんだ」
それは、確かに彼女らしいとは思った。けれど同時に、グレイには理解し難い事でもあった。誰かの為に、況してや会ってそれほど日数が経った訳でもない者、或いは関わりすら持った事のない者の為に何故そこまでしようと思えるのかが、彼には不思議でならなかった。
そんな思いが顔に出ていたのか、レジウィーダは人の眉間を指さすと小さく笑って「ブサイク」と呟いた。
「って、誰が不細工だ!」
この超美フェイスに何て事言いやがる、といつもの軽口を漏らせば、レジウィーダは意地の悪い笑顔で舌を出した。
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