A requiem to give to you- 開花の兆し・後編(1/12) -
聞こえるかい? ぼくの声が……君の耳に届いているかい?
怯えないで、怖がらないで、ぼくの声だけを聞いて。君はもう、立派な翼を持っている。後は鎖を断ち切るのみなんだ。
目を開けて、耳を傾けて、ぼくを感じて。その魂を、ぼく達に委ねて。───大丈夫。君は飛べるよ。自由に、羽ばたけるんだ。
ぼくを……ぼく達を、自分を信じて。君は自由な風にも、静かに波打つ水にも、荒れ狂う嵐にも、赤く燃える業火にだってなれるんだよ。
さあ、今こそ手を伸ばして……その力を目覚めさせよう────!!
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
冷たく暗い石造りの通路を歩いていると、突如遠くの方で何かが爆発するような音がした。それは相当大きな物だったらしく、時差でその震動がこちらまで伝わって来て、アッシュは思わず足を止めた。
「何だ……?」
「多分、仕掛けていた爆弾が爆発したンじゃねーの?」
驚くアッシュを余所にグレイは事も無げに言う。今し方爆発した爆弾はグレイが予め設置していた物だった。またそれは彼自身が特別な改良を施したのもあり、人体に害はない。
「まぁ、床の一枚や二枚は抜けてっかも知れねェが、それに巻き込まれりゃ暫くは動けねーだろうよ」
ケラケラと悪戯が成功した子供のように笑うグレイにアッシュは呆れたような溜め息を吐いた。
「お前と言う奴は………まぁ、良い。そう言う事なら捕まえるチャンスだ。直ぐにその場所に戻るぞ」
「ン、その必要もねェみたいだぜ」
踵を返そうとしたアッシュの肩を掴んで引き留めたグレイが指差した先には……
「オメェら何者だ!?」
「侵入者だ!!」
「捕まえろ!!」
例の人拐いの集団がいた。その手には各々の武器を持ち、掛け声と共にこちらへと一斉に走ってくる。それにグレイはニヤリと笑った。
「あいつら全員取っ捕まえりゃあ、万事解決だろ?」
「ハッ、そう上手くいくかよ」
そう言って鼻で笑いながらもアッシュは剣を引き抜き構えた。それに倣うようにグレイも両手に何本ものナイフを構える。
「それを何とかするのが大将の仕事だろ? さぁ、………───行くぜッ!!」
その声を皮切りに二人は同時に走り出した。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「……………………」
そこにはただ無言の空間が広がっていた。いや、正確には声を上げたくとも出せないでいるだけなのだが………。
「……何なの、このデジャヴ感は」
不意に一人の少女がそう言った。それにより硬直状態が解けた二人の少年も口々に言葉を紡ぐ。
「アンタ誰?」
「あわわわわ………ヒースー!!」
深緑髪の少年は突然の少女の登場を訝しみ、茶髪の少年は顔面を蒼白にして少女の下にいる者の名を叫んだ。しかし少女は深緑髪の少年の問いには答えず、茶髪の少年の口から出た者の名にピクリと反応を示したのだった。
「ヒース、ですって……?」
「え?」
ユラリと振り向いた少女に茶髪の少年が驚くも、彼女は構う事なくその胸倉を掴んで引き寄せた。
「あわわっ、な、何だよ!?」
「あのうすのろ馬鹿ワカメ、いるの? どこに?」
ニッコリ、と効果音でも付きそうな位に綺麗な笑顔を浮かべて問い掛ける少女に少年達は何故か底知れない恐怖を感じた。下手な事を言えば一瞬で氷漬けにでもされそうな、そんな感じだ。
二人の少年は思わず顔を見合わせると同時に少女の下を指差した。
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