A requiem to give to you
- 狂妄を謳う詩(2/4) -



「そう言う問題じゃねーだろ! 大体、オレらが何の為にこんな面倒臭ェ事してまで騎士団に入ったと思ってンだテメェ、あぁ!?」



恐らく今の自分は相当ガラが悪い事だろう。現にあれだけ喚いていたレジウィーダが怯んでしまった。しかしグレイは構わずに言った。



「こんな右も左もわからない上ややこしい事だらけの世界に放り出されたら、人探しはおろか生きていく事すら出来ねェってのに………加えて逃亡生活だぁ? 生言ってンじゃねーぞ!」



そんな波乱万丈な状況でどっかのゲームや小説みたいにミラクルがそうそう起こる筈もないし、そもそも起きて堪るか。



「万が一にも涙子達を見付けたとしてもだ。そんな状況下で更に帰る方法も探さなきゃならねーンだ。軍が本気出したらまず無事じゃ済まねェ」

「……………」



流石にオーバー過ぎたかも知れないが、レジウィーダを黙らせるには十分だったようだ。そんな彼女は悔しげに拳を握り締め俯いている。



「……でも、イオンとシンクは違う。同じじゃないんだ」



それはきっと先程のイオンの「役に立たない"僕"」からだろう。

しかしレジウィーダの言っている事は決して間違ってはいない。世の中、"同じモノ"など存在しない。例え姿形、魂や元となる個人を表す情報が同じであったとしても、そいつの心はそいつだけの物なのだから。



「イオン様……?」



突然聞こえた声にその場にいた全員が驚いたようにその方向を見た。そこには泣いたのか、目元を赤くしたアリエッタが不思議そうな顔をして立っていた。その後ろには不機嫌なのを隠しもしないアッシュがいる。



「アリエッタ、それにアッシュも。いつからいたんですか?」



どことなく冷えた声でイオンが二人に問う。そんな彼の様子を感じ取ったアリエッタは少し怯えた様子を見せた。



「あの、その……」

「つい今だ。泣きながら導師を探すこいつがいたから仕方なく着いていたら、あまりにも煩い声が聞こえたもんでな。来てみたらそこの二人が揉めてるのが見えたんだよ」



上手く言葉が出ないアリエッタの変わりにアッシュがこちらを一瞥しながら答える。



「それより導師、今日は外に出る日ではなかった筈だが?」

「そんなの向こうが勝手に決めた事です。僕の行動は僕が決める事だ。何しようとお前らには関係はない」



それから、とイオンはアリエッタを見た。



「アリエッタ、今日はお休みだよね? 僕を探しに来たと言う事は来たんだね、部屋に」

「あ……あの、外で綺麗なお花、見つけたから……イオン様にも見てもらいたくて……」



辿々しく小さな声で言うアリエッタにイオンは更に追い討ちを掛ける。



「それでも、休みの日には絶対に来ては駄目だと言っておいた筈だよ」

「……ごめん……なさい、イオン様……」



イオンの冷たい態度に耐えきれず涙を溢すアリエッタを見ていられなくなったレジウィーダが彼に言う。



「何アリエッタに当たってるんだよ!」

「彼女は僕の命令を破ったんです」



その言葉にアリエッタはビクリと肩を震わせる。



「でもアリエッタはアンタを思って……」

「レジウィーダ!」



更に言おうとするレジウィーダをアリエッタが抱き着くようにして止めた。



「良いの……アリエッタが、イオン様との約束を破ったから……イオン様、怒ってる……です」



それにレジウィーダは首を横に振った。



「それは違うよ。いや、完全に違うとは言い切れないけど……でも、少なくともイオンはアリエッタに対して怒ってると言う訳じゃない」



そう言ってイオンを見ると、彼は二人から顔を背け俯いていた。その表情は隠れていて確認する事は出来ない。

するとアッシュが溜め息を吐きながら口を開いた。



「とにかく一度、部屋に戻ってもらうぞ」


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