A requiem to give to you- 笑劇と衝撃の庭(2/5) -
「それではどうしてもバランスが悪くなってしまうんじゃ」
如何にして綺麗に見せるか。庭師と言っても、只庭を管理すれば良いものではない。こうして一つ一つの花の配色やらを丁寧に見て調節をする。一種の芸術家だ。伊達に何年もここでの庭師をやっていないペールにとって、花の配置一つにも大きな拘りがあるのだ。
そんな彼の心情を察したのかしていないのか、取り敢えず両方植えるのを諦めたヒースは次の方法を考え始めた。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「おいっ、そっちへ行ったぜ!」
何だか庭が騒がしくなってきたと思い始めた頃、ルークのそんな声に二人は顔を上げた。見れば庭野中心部辺りでルークとガイがボール蹴り合っていた。少し離れた所ではタリスがベンチに座ってお菓子を食べていた。………それは良いのだが、
「はて、あのようなボールはこの邸にあったかな?」
「………あれ、僕のだ……」
ペールが首を傾げている横でヒースがボソリと呟いた。因みに二人が蹴り合っているのはサッカーボールだったが、この世界にはサッカーその物がないらしい。ペールは物珍しげに見た事のないボールの模様に興味深げに見ていた。
「よっ、それっ、ガイ!」
「おっと。ほら、お返しだ!」
ルークの蹴ったボールをガイが胸で受け止め、落ちたボールを一旦膝で上げてからそのまま勢い良く蹴り返した。二人ともなかなか楽しんでいる様子だった。
ガイもそうだが、普段は剣の稽古にしか興味を示さなかったルークまでもがこんなにまで楽しむ姿と言うのは本当に珍しい。それは偶然庭の横の廊下を通り掛かった兵士やメイド達も思っているらしく、皆立ち止まりその様子に見入っていた。
「あ、やべっ!」
暫く上手く蹴り合っていたが、ふとルークの狙いが逸れてしまった。軌道を外したボールは思いっきり蹴った勢いのまま真っ直ぐにお茶を啜っていたタリスの方へと飛んで行く。
「! タリス避け……────」
ルークの必死の声も間に合わない。その時……
「ふう……
そーれ♪」
瞬時にティーカップを置き、ベンチに掛けてあったルークの木刀を手に取りブンッと振った。直後、バコーンと鈍い音と共にボールが消えた………のではなく、打ち返した勢いで更に加速したボールは今度はヒースに向かって飛んでいった。
「え」
ドゴッ バシャーンッ
「おやおや」
「あら」
「あ……」
「うわー…」
皆の視線は一斉に一ヶ所に集中した。そしてその視線の先には………
顔面を強打し花壇の後ろの水場に落ちたヒースが目を回していた。
「………。まぁ、不可抗力よ」
「いや、まずは謝れよ」
フッ、と失笑してそのウェーブがかった髪を手で払ったタリスに水場から飛び起きたヒースが突っ込んだ。その驚異の復活劇にガイが密かに感心していたのはここだけの話だ。
「つーか、お前も避けろよな〜」
先にタリスへとボールを飛ばした事を棚に上げて言うルークにタリスは笑った。
「それは無理よ」
「何でだ?」
「だって、ヒースは重度の運動音痴だもの」
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