A requiem to give to you
- 開花の兆し・前編(2/6) -


そんな二人の様子に今まで黙っていたクリフが溜め息を吐いた。



「ちょっとトゥナロ。それじゃいつまで経っても相手はわからないって。ちゃんと説明してあげなよ」

「ん、ああ……悪いな」



思考の淵から戻ってきたトゥナロはそう言って改めてレジウィーダを見た。



「まぁ、なんだ。要するにお前一部の記憶が欠落してるって事だよ」

「いやいや、今の流れで何でいきなりそうなるよ! ってか、何かすごく聞き捨てならない事言ったよね!?」

「だから……お前に記憶がねーから、ここに呼ばれた理由も力の事も、それから鍵の行方についてもわからないんだよ」

「…………え?」



淡々と紡がれた言葉に今までのふざけた雰囲気はなく、レジウィーダは思わず口を閉じた。そんな彼女にトゥナロは一つ息を吐き、そして言葉を紡いだ。



「オレは、ローレライの使者だ。お前の知りたい事、教えてやるよ。まぁ、流石に直ぐに、とは言えないが………………少しずつ、な」



ストン、と椅子に凭れ掛かったトゥナロはそう言って金の目を細めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヒュゥ………────





「…………?」



ふと、微かな風が肌を撫でた。どこからか漏れ出ているのだろうか。ヒースは気になって風の来る場所を探したが、どうにもあちらこちらに穴でも開いているのか、今一わからなかった。せめて目が見えればと困っていると、ずっと足の上に乗ったかっていたモノがモゾリと動いた。



「ぅ………ここは、?」

「漸く目が覚めたか」



声変わりもまだ終わりきっていないような少年の声にヒースが声をかけると、それは酷く驚いたように彼の上から飛び退いた。



「だ、誰………って言うか暗っ! 何これ!?」

「僕はヒース。多分、君と同じく捕まった者だよ」

「多分って何だよ……」



呆れたようにそう言ったものの、幾分か落ち着いたらしい。少年は一つ息を吐き出すと改めて口を開いた。



「あんた、いつからここにいるんだ?」

「さあね。気が付いたらここにいたし、おまけに視界は真っ暗と来たもんだ。どのくらいの時間が経ったかすらわからないよ」



そうか、と言った少年の声は落胆の色を見せる。普通なら何かしらの励ましの言葉をかけたりするものなのだろうが、ヒースには持ち合わせがなかった。それ以前にあまり中途半端な事を言って余計に怖がらせたり悲しませてしまうのが嫌なのだ。



(だから僕はいつまでも弱いんだろうな……)



はぁ、と思わず溜め息を吐くと少年が心配そうに声を掛けてきた。



「大丈夫か?」

「うん、まぁ……大丈夫」

「そっか………あ、でさ」



少年は安心すると話を変えるようにして言った。



「今ここにいるのって俺達だけなのかな?」

「今は、ね」



今までの拐われてきた子供達は既に売られたか殺されたかしたのだろう。それがどのくらい前だったのかはわからないが、近い内に自分達もその道を辿るかも知れない。……それだけは何としても避けなければ。



(風がある、と言う事は地下ではないはずだ。何とかこの拘束が解ければ………)



何とかなるかも知れない、と脱出の糸口を探すヒースの後ろで、扉の開く音がした。もう来たのかと二人は身体を強張らせたが、ドサリと床に何かを落とすような音の後、再び扉は固く閉ざされてしまった。



「な、何だ………?」

「! 誰かいるのですか?」



恐る恐ると言った少年に何かは声を発した。どうやら新しく誘拐された子供らしかった。声からしてやはりそちらも少年なのだろう。しかし少年はそんな事は気にせず、同じ境遇の者が増えた為か不謹慎にも新しく来た少年にどこか嬉しそうにしていた。



「お、お前も拐われたんだな!」

「そう……みたいですね」



どことなくホッとしたような少年の声に新しく来た少年は落ち着いた様子で肯定した。


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