A requiem to give to you
- 暗雲の空(2/5) -




"――――危ないよ!"


「え……」



突然、冬の冷たい風と共にそんな声が聞こえた。それに思わず辺りを見渡した瞬間、ルークの足元に紫色の大きな譜陣が出現した。



「ルーク!!」



そう叫ぶと同時に譜陣の上に雷の剣【サンダーブレード】が突き刺さり、大きな音を立てて爆発した。



「いってて……た、助かったぜヒース」

「いや……」



間一髪の所でヒースがルークに体当たりする形で譜陣の外に追い出した事により難を逃れた。それによりホッと安堵するルークの横でヒースは不可思議な現象に顔を顰めた。



(今、一瞬身体が軽くなったような……)


"次来るよ!"

「な、何だ!?」



再び吹いた風に混じった声とルークの声が重なる。ルークの指差す方を見上げれば、屋根の上から黒装束の人間が白い大きな袋のような物を手に勢い良く飛び出してきた。



「―――覚悟!!」

「う、うわぁっ!?」

「っ、ルーク!!!」



無我夢中でルークと黒装束の間に割り込んだのを最後に、ヒースの視界は真っ白になった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







場所は変わってダアト・ローレライ教団教会のとある一室。そこではペンを片手で器用に回しながら暇そうにしているレジウィーダの姿があった。



「あー………暇だぁ」



そうは言うが実際には全く暇などない。証拠に今彼女の目の前には山の様に積み重ねられた大量の書類があるのだから。



「有り得ない……本っ当に有り得ないだろコレェ……」



最初の三日は何とか頑張った。その中でこれはかなり減った方である筈なのに、未だ終わりが見えそうにないのは何故だ。そのあまりにも理不尽な量の多さに終いにはペンを投げ出して憤慨するしかなかった。



「ぬあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!! もうっ、出来るかこんなモン!!」



もう嫌だ、と泣きそうになるのを堪えていると扉に控えめなノックがされ、返事をする前にそのまま開いた。



「レジウィーダ、お菓子あるから一緒に食べ……」

「うわあああんっアリー!!」



トコトコと入ってきたアリエッタに思いっ切り抱きつく。それに抱き着かれた本人は一瞬目を丸くしたものの、特に嫌がる事もせずにレジウィーダの頭を撫でた。



「どうしたの?」

「もう聞いてくれよ! アッシュがっ……あの鶏デコポンな赤毛魔王がっ! あたしにこの書類整理を全っ部押し付けてシンクと一緒に任務へ行っちゃったんだよ!?」



ズルくない!? あたしだってシンクとらんでぶー(?)したかったのに!

そう言うレジウィーダはどうやらそっちに対しての怒りの方が強い様子だった。それにアリエッタはよくわからないままに取り敢えず返した。



「でも、レジウィーダはアッシュの副官だから、これはレジウィーダの仕事……だよ?」

「あ、うん。まぁ、そうなんだけどさ。でもこの量はいくら何でも酷すぎっしょ……」



聳え立つ山のような書類を見上げ、レジウィーダは深い溜め息を吐いたのだった。






――――
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それは約一年前に遡った、ND2016.レムデーカン

年明け直ぐに公表された人事異動及び新規入団兵の配属発表の件でヴァンに呼び出されたレジウィーダはグレイ、フィリアム、アッシュ、シンク、アリエッタ、ディスト、ラルゴと共に会議室に集まっていた。それぞれの手には配属場所の書かれた紙が握られており、それを見たある者は不機嫌になり、またある者は悲しそうに眉を下げ、そしてまたある者はそんな二人を嘲笑い、またそんな彼らを詰まらなさそうに見ている者や、どうしたら良いのかわからずに困惑する者など、何とも微妙な空気が漂っていた。


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