A requiem to give to you
- 終曲は小さな歌を想ふ(2/2) -



ダアト、ローレライ教団のとある一室。シルフィナーレは己の執務用の机の眺めていた。

お世辞にも整理整頓されたとは言い難く、彼女が今までの人生で集めてきた本やら資料やらが乱雑に乗っているそこは、他者にはわからずとも、置いた本人にはわかるようにある程度仕分けはされていた。

暫くヴァンやリグレットに着いて各地へ出ていたこの数日の間に何があったのか、机の上の物の位置が色々と変わっていることにシルフィナーレは直ぐに気がついた。そして、一部の物がなくなっている事も当然わかっていた。



「日記と、昔の研究資料……と、言ったところかしら。悪いネズミさんがいたものね」



どちらも今は使ってはいないとは言え、決して気分の良い物ではない。しかしそれで気を荒げるようなこともなく、シルフィナーレは椅子を引いて座ると、机の引き出しを開いた。

そこは机の上とは違いきちんと整理されていて、荒らされた様子はない。それに小さく安堵を漏らしながら、引き出しに手を入れて一つの小さな写真立てを取り出した。

当時勤めていた研究所で開発途中だった譜業装置で撮影されたそれには、白衣を着た二人の少女が写っていた。



「……アリア」



そう、小さく呟いて写真に写る片方の少女の指で撫でる。もう片方の少女ともよく似たその風貌は、まさにシルフィナーレとも似ていた。

アリア、それはシルフィナーレにとって唯一無二の存在だった。誰よりも大切で、生まれた時からずっと一緒にいたかけがえの無い半身。

二人で大きな夢を追いかけていた。その為にたくさんの犠牲を払い、罪を重ねた。それは到底許される物ではない事も多々あり、その過程で半身を失った事は、ある種自業自得とも言える。



(本当は、あの子に罪はない。アリアが死んだのも、あの子の兄が死んだのも……全ては私達のせい)



平和に過ごしていた彼女達の日常を壊し、事を強いようとしたのはこちらなのだ。───頭ではわかっている。だけど気持ちの整理がつかない。



(今更、後にも引けない。私は……私達の夢を叶えなければならないの)



ヴァンの目的は正直どうでも良い。どうせ彼は彼でやっている事は所詮自己満でしかないのだから。

変えるのは未来じゃない。



「過去から、変えないと……」



でなければ、こんな腐った世界は一生かかっても変わらないし、近い将来に本当に滅びてしまう。

その為にはやはり、嘗てある女性が示した異次元のエネルギーが必要なのだ。そしてそれを扱えるのは……現時点では《時空の魔術師》のみ。



(もしくは私自身が、彼女の力を使えるようになれば……あるいは)



嘗て、ある犠牲を元に無理矢理次元を超えた事がある。僅かでもその特異な力を操れたことがあるのだから、可能性は無きにしも非ず……なのかも知れない。

シルフィナーレは椅子から勢いよく立ち上がると、まだ引っ越してきてから未開封だったいくつかの箱を開け始めた。

様々な本、資料、ガラクタやらが床に転がっていく中、やがて一つの音機関を手に取ると、小さく笑った。



「元研究者の血が騒ぐわ。………巡ってきたチャンス。今度こそ物にして見せるから」



だから待ってて、アリア。

そう呟いたシルフィナーレは、楽しそうに鼻歌を歌いながら音機関を手にその場を後にしたのだった。







END
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