A requiem to give to you
- 蕉鹿の夢(2/4) -


誘拐された船の整備士を救出し、行方不明だったレジウィーダとの合流も果たした一行はカイツール軍港へ戻る為、ヴァンの手配した辻馬車の待機する入り口へと向かっていた。



「それにしてもここは随分と………多いわねぇ」



と、タリスは辺りを見渡しながら呟いた。それに約二名ほどが肩を震わせるのを後目に入れ、わかってて尚問い掛けるのはやはり大佐だった。



「何が多いのでしょうかね〜?」

「あら、答えても良いのかしら?」



ニッコリと笑いながらタリスはヒースを一瞥すると、キッと睨み返された。しかしイマイチよくわからない様子のイオンは純粋な探求心から更なる問いかけを彼女に投げ掛けたのだった。



「あの、タリス。この城に一体何がいるのですか?」



それに彼の隣にいたアニスは苦笑しながら言った。



「イオン様ったら。こう言う薄暗ーくて、ジメジメってしてて、尚且つ闇系のモンスターが徘徊してるような場所にいるモノと言ったら……アレしかないですよぅ」

「アレ? ……! わかりました、蜘蛛ですね!」



その言葉にアニスを始め数名がガクッと効果音でも付くかのように頭垂れた。



「あはは、流石イオン君……」

「まぁ、ある意味間違っては……ないよな」



苦笑してガイとレジウィーダは言うが、ヒースはよく言ったとばかりに大きく頷いていた。



「そうなんですよ。暗くてジメジメしてるような、更に言うならば人の手が届かない場所にいるモノと言ったら蜘蛛やゴ●ブリと言った所謂害虫の他に有り得ません。ええ、有り得ませんよ。それ以外にいるとすれば……精霊、とか?」

「精霊……ですか?」

「でもそれは御伽噺の世界の話でしょう」



それこそ有り得ませんよ、と首を傾げるイオンに続きジェイドが肩を竦めた。それに事情を知っているガイが口を開くよりも先に、タリスは何かに気が付いたように彼の後ろを指さした。



「じゃあ、今こちらに近付いてくる何かも精霊なのかしらねぇ?」

『え…………?』



それにヴァンとグレイを除く全員が彼女の指さす先を振り返った瞬間……───
















ルークが吹っ飛んだ。



「ルーク!?」

「ルーク様ぁ!?」



あまりにも予想外の事に声も無く倒れたルークにガイとアニスが驚いて駆け寄る。それにレジウィーダも小さな灯りを点しながら続いてルークを照らしてみると、何か小さな物体が彼の顔に張り付いていた。

しかし一行はそれを見て直ぐにその物体……否、生き物の正体がわかった。



「ご主人様ぁ〜〜〜v」

『ミュウ!?』



水色のチーグルことミュウを見たガイ達の声が重なる。次いで「完全に忘れてた」と言う心の声までもが重なったのは内緒だ。だがしかしそんな心の声も何のその。ミュウを視界に入れてから真っ先に動いたティアは未だに床に打ったらしく頭を押さえて悶えるルークから彼(?)を引き剥がすと優しく抱き締めた。



「ミュウ、無事だったのね!」

「はいですの! ミュウはレジウィーダさんとずっとこのお城の中にいたので大丈夫だったですの!」

「そうだったのね……でも、本当に無事で良かったわ」



その言葉にガイによって上体を起こされているルークから「俺の無事はどうでも良いのかよ」とツッコミが入ったが、残念ながら今のティアの耳には届かなかった。



「でも、レジウィーダさんがお散歩に行ったきり帰ってこなくて、他の人達もいつの間にか居なくなってちょっと寂しかったんですの。だからまた皆さんと会えて嬉しいですの〜♪」



と、少し恥ずかしげにな笑顔で言ったミュウを間近で見たティアはあまりの可愛さに目眩がしたのだった。


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