A requiem to give to you
- 世界に一人ひとつの輝き(2/4) -


不気味な雰囲気漂うコーラル城。十数年前まではファブレ家の別荘地であったらしいが、戦争で前線が押し攻められた為已む無く放棄されたと言う。以来、元々人里少ない丘の上に建てたれたそこに人の手は入らず、廃墟と化しつつあった。

そんな古びた小城にシンク他三人の六神将がいた。あくまでも今現在は"いた"と言う過去形ではあるが……。その理由は簡単で、三人の内二人は既にこの城を発っているからだった。一人の行方は知らないし興味もないが、もう一人はここから一番近く(とは言ってもかなりの距離がある……)にある軍港へと『オツカイ』と言う名の襲撃及び整備士の誘拐をしに出掛けている。だから直に戻る事だろう。

さて、その間残されたシンクともう一人は何をしているのかと言うと、一人はオツカイによっておびき寄せる『獲物』に施す作業の準備をしている。シンク自身は今はまだやる事もなく時間を持て余していたので、暇潰しにそいつをからかってやろうとしたが、譜業弄りに夢中になっている奴にはこの時ばかりは効果がなかった。

仕方なしに城中に徘徊している雑魚相手に鍛錬でもしようかと部屋を出て暫くした時だった。



「シィィィィィィィンンンンンンンンンンンクゥウゥウゥゥウウウゥウッv」



そんな絶叫とも取れるような声が響いたと思った途端、いきなり物凄い勢いで視界がブレたのだった。それと同時に身体を締め付けられる感じがして、息が苦しくなった。

だがシンクは驚かなかった。そのパターンには覚えが有りすぎるからだ。事実、現在彼の身体を物凄い力でとっっっっても嬉しそうに抱き締め(締め付け)ている紅色がいるのだ。鮮血と名の付くどこかの同僚とはまた違うくすんだその赤は、この薄暗い空間では黒にも見えなくはない。



「……ねえ、ちょっと…苦しんだけどっ!」



何故だか会う度に高確率で人を締め上げてくる(本人曰く愛でている)その紅色の髪を持つ少女ことレジウィーダにいつもと同じ様に苦し紛れに文句を言う。いつもと同じ、とは言うが実は一年以上久し振りの光景だ。だがしかし、長い日数を重ねてもこの女の癖は相変わらずの様だった。



「シンクー会えて良かったぁ〜」



と、何故か感動の再会を果たしたかの様な口調でそう宣った。確かに一年振りの再会ではあるが、それならばその台詞はさっき会った時に言うべきではなかろうか。そんなあまりにもズレているタイミングに脱力をしているのも束の間、自身を締め付ける力は徐々に強くなっているのを感じ、慌てて引き剥がそうとする。



「ち、ちょっと! ホントに苦しいってば……息できなっっ」

「え?」



ここで漸くレジウィーダはシンクが危険信号を出している事に気付き、「あ、ごめん」と苦笑して離れた。その瞬間、シンクは大袈裟とも取れるくらい大きく深呼吸を繰り返した。



「はあ……はあ…………本当にアンタって……考えなしだな!」



その内本当に圧迫死するんじゃないの、と言い掛けてその言葉は呑み込んだ。女の、しかも自分よりも小柄な少女の腕に抱き締められて死ぬなど、冗談がキツ過ぎる。それならばまだ同じ顔に殺された方がマシだ。

シンクは今度は一度だけ大きく息を吸うと同じ様に吐き出しながら疲れたように言葉を紡いだ。



「……それで、アンタは一体何してるのさ」



そうやって聞けばレジウィーダは思い出したかのように目を見開くと手を叩いた。



「あ、そうそう。実はさっきアリーの見送りしてたんだけど、それからディスっちゃんのいたあの変な機械のある部屋に行こうとしたんだ。ミュウも置き去りだし、さっきライガに咥えられたせいで襟に穴空いたっぽいから着替えもしたいし…………でもね」



そこまで言ってから途端に言い辛そうに視線をあちらこちらに彷徨わせた彼女にシンクは漸く理解した。














迷ったな、と。それならば先程の言葉も納得である。


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