A requiem to give to you
- 曖昧で不透明(2/6) -



大切だからこそ、許せない事だってある。信頼していたから、その選択肢に憎しみすら覚えた。そして何よりも、悲しかった。子供だから、自分も相手に負けないくらい酷い事をして返した。

それくらい憎かったから。有り得ない、どうして……絶望と失望。"アレ"は、子供にそんな感情を抱かせるには十分なインパクトを持っていた。

けれど、どんなに憎かろうが嫌いだろうが、それが本当に自分の本心だと言うのなら……今頃こうして一緒になんていないのだと思う。それは"君達"にも言える事だ。例え成り行きや義務、責任がどうのと言った所で、その選択をして、こうして今、共にあるのだ。どんなに言った所で、いつだって離れる事は出来る筈だ。でもそれをしないと言う事は、それなりの信頼が築かれていると言う事なのではないだろうか。

……そしてそれは、ずっとずっと色褪せないモノなんだって、最近、僕は思うんだよ。






◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇*







アリエッタの強襲、障気の噴出とトラブルが立て続けに起こったものの、何とかフーブラス川を抜けたヒースは休憩すべく立ち止まると、大きく息を吐いて同じ様にしている仲間達を見渡した。



「皆、大丈夫か?」

「ええ……こっちは大丈夫よ。イオン様、お身体の方は大事ないですか?」

「少し疲れたくらいで、特には」



ヒースの言葉にティアが答え、次いで彼女はイオンを見やり彼の体調を伺えば、疲労は見えつつも障気よる症状等はなくいつもの笑みを浮かべていた。

しかし、



「ルーク?」



レジウィーダが俯いたまま喋らないルークに気が付き、声を掛けていた。これは相当怒っているなと思っていれば案の定、のろのろと顔を上げたルークは物凄く不機嫌な顔をしていた。ヒースは肩を竦めるとルークに向かって苦笑混じりに言った。



「そんな顔するなって。タリス達なら大丈夫だよ、ちゃんと戻ってくるよ」

「けど……っ」

「いい加減そうに見えるけど、あいつ……グレイはこういう時の約束だけは守る奴だから」



そう言ってみるが、ルークは納得しなかった。



「でもアイツは……元々は敵だろ! そんなの、信用できねぇよ!」

「ルーク……」



確かにグレイとの付き合いが長いヒース達とは違い、ルーク達は最悪な状況で彼と出会った。かと思えば次に会っていきなり旅について行くだなんて言われても、何だかんだ言いつつ信用なんて直ぐには出来る筈がないのだ。



(まぁ、ルークの場合はそれだけじゃないみたいだけど)



恐らく本人にとっては無意識なのだろうが、ここ最近の、彼のタリスへの態度が少しずつ変化している事にヒースは気付いていた。己でわかるくらいだ。間違いなくずっと彼を見てきたガイ、妙に鋭い大佐も気付いている事だろう。レジウィーダと一緒にいる時でさえ不機嫌になるのだから、彼女の恋人であるグレイと二人きりでいると言う事実は非常に面白くないのだろう。でもどう言葉にしたら良いのかわからず、そう口走ってしまったのだ。信用していないと言うのは事実だろうが、仲間としての彼を見てくれている事も、フーブラス川に置いてきてしまった事を純粋に心配してくれている面があるのもわかっている。だからこそ、ヒースはどう返そうか迷い、口を噤んでしまった。

ヒースが黙っていると、ルークはキッとフーブラス川がある森の方へと体を向けた。



「やっぱり、俺は戻るぜ!」

「待ってルーク!」



今にも駆け出しそうなルークの肩を掴み引き留めたのはティアだった。



「貴方が戻ってどうするの! 第一、貴族とは言え旅券も証明書も持っていない今の貴方が国境を越える為には早々の手続きが必要なのよ」



況してや今は戦争を回避する為にも一刻も早くバチカルへ向かわなければならない、そう言うティアにルークは「うるせぇ!」と怒鳴りながら彼女の手を払った。



「口を開けばグチグチと固い事ばっかり言いやがって! 直ぐ側にいる人間の心配一つまともに出来ねえで偉そうな事言ってんじゃねぇよこの冷血女!!」

「…………っ!」



ルークのその言葉にティアの瞳は動揺に揺れた。そして次第に蒼くなっていく顔にルークは一瞬戸惑いを見せるも、結局彼女に何かを言う事なくフーブラス川の方へと走っていってしまった。



「おいっ、ルーク! ………あー行っちまった……」



ガイの呼び掛けにも構わずあっと言う間に小さくなる背に彼は困ったように溜め息を吐いた。次いでガイは相変わらず食えない笑みを湛えるジェイドを向いた。



「それで、どうする? 戻るか?」

「戻りませんよ。イオン様のお身体を考慮して、我々は一度此処らで休んでおくのが最善でしょうね」



きっぱりと即答された後に続いた言葉にガイはイオンを見やり、次いで無言で俯くティアを見て頷いた。

そこでヒースはふと、ティアと、先程ルークが去っていった方を交互に見てはそわそわと落ち着かない様子のレジウィーダの姿に気が付いた。それから小さく嘆息し、その肩を軽く叩けば吃驚したように振り向かれた。


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