A requiem to give to you- Wretched wolf(2/4) -
「………………」
死屍累々、とはこの事か。現在、神託の盾騎士団の謡将として名高いヴァン・グランツを始め、参謀長他幹部、その補佐らが通称「みんなの休憩所(またの名をヴァンの執務室と言う)」にて白目を剥いて倒れていた。本来ならこの者達と同じ運命を辿る筈だった彼、グレイ・グラネスは長年培ってきたその耐性にて何とかこの者達のような無様な姿を晒さずに済んだ。
「………リグレット」
苦し紛れに、そしてどこか憎らしげにこの惨状を作り上げた原因の名を呼ぶと、その者はビクリと肩を震わせ、それから申し訳なさそうに頭垂れた。
「ご、ごめんなさい……」
と、どこか落ち込みながらも謝る金髪の女性、リグレットの手には何とも美味しそうな小籠包の乗った皿がある。そう、美味しそうなのだ。見た目だけは。しかしてその味は如何な物か。それはこの惨状から想像には難くないだろう。
グレイはコップに入れた水を飲んで一先ず落ち着き、それから疲れたように口を開いた。
「一体何を入れたらこんな味になるンだよ」
「わからないわ。けど、私が料理を作ると何故か皆こうなるの」
「…………自分で食った事は」
「勿論ある。だからこそ、不思議だわ」
不思議だわ、じゃねェ。
どうやら彼女は極度の味覚音痴らしい。
「………取り敢えず、キッチンに行くぞ」
そう言うとグレイはリグレットを引き連れ「みんなの休憩所」改め「集合墓地」から離脱した。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
魔弾のリグレットと畏れられる彼女が小腹を空かせた「閣下」の為に軽食を作ると言い出したのは何分前の事だっただろうか。小籠包なんて(やたらと作り方の)凝った料理のどこが軽食だなんてツッコミを入れる者はおらず、その(いろんな意味での)珍しさに匂いに釣られた大食漢で有名な参謀長のみならず、幼獣やそのオマケの鮮血の部下、偶々居合わせた黒獅子とグレイの義弟、そしてグレイの計七名がその小籠包を食した。
……が、しかしそのあまりの味の酷さに冒頭の惨状を生み出す事となってしまった。
「とにかく、だ。何でも良いから何か簡単なモン作れ」
執務室のキッチンへとやってきた(避難したとも言う)グレイはあのあまりにも酷すぎる料理が何故に出来てしまうのか。それを解明する為、一先ずリグレットの料理の様子を見てみる事にした。
「何でも……と急に言われても、何を作れば良いのかしら?」
「何でも良いンだよ。何でも」
アバウト過ぎる。だがそれがグレイなのだから仕方ない。リグレットは一つ溜め息を吐くと冷蔵庫から挽き肉を取り出した。
「じゃあハンバーグでも」
「何でだよ」
何でそんな時間のかかるモンをチョイスしちゃってンの。
「何でも良いと言ったじゃない」
「いやそうだけど、オレは簡単な物って言ったぜ?」
そう言うとリグレットは「そう言えばそうだったわね」と納得し、今度は冷凍庫から魚を取り出した。
「それじゃあ、蒲鉾(かまぼこ)を」
「そっから!?」
つーかそれもう料理じゃなくてただの食材だッ!!
「つみれ汁」
「いや、だから……」
「魚のハンバーグ」
「あのさ」
「鮟鱇(あんこう)の土手鍋」
ブチィッ
「……よしわかった。取り敢えず練り物からはなれよう、な?」
そして30分後……
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