A requiem to give to you
- 鐘鳴る樹のハナシ(2/2) -



それはまだオレがもっともっとガキだった頃。そう、多分小学生にも満たないような小さい頃の話だ。

オレの住んでいる街には大きな樹がある。名前はよく知らない。それは街のシンボルとされていると同時に、ちょっとした都市伝説がある。その話はこの街に生まれこの街で育った奴なら一度は聞いた事のある事だ。オレは母さんから聞いたんだが、何でもこの樹は世界にただ一つしかない樹らしい。

ン? 何でそんな事を知っているかって? それはどの文献にもこの樹の事が一切として記載されていないからだよ。勿論それだけじゃない。過去に何度かテレビや新聞なんかで出てくるような有名な学者共が調べに来た事もあったが、やっぱり誰一人としてこの樹の名を答えられなかったんだ。

ならばもっとマスコミやなんかが騒いでいるだろ、なんて思うだろう? けど、そうさせないように押さえ込んでいる……と言うか押さえ込ませられるような、これまた馬鹿に有名な権力者がこの街にいるから正直な所、あんまりこの樹の事は世間には知れ渡っていない。

もうこの時点で既に胡散臭さが満載なんだが、本題はここからだ。そんな名も不明(つーか、あるのか?)なこの樹。昔から神隠しが起こると言われているらしい。何でも鈴……いや鐘だったか? まぁとにかく、その音が鳴り響いた時に樹の根が独り手に伸びてきて冥界へと連れ去るんだと。因みにその何ともオッカナイ樹があるのは街で一番大きな公園のど真ん中だ。神隠しの対象となるのは主に子供が必然的に多くなる。だから昔から「悪い事をすると樹の悪魔に連れて行ってもらうよ!」とか言い聞かされて育った奴がこの街にはたくさんいるわけだ。





……でもな、残念ながらこの手の都市伝説ってのは時代と共に廃れていくもんだ。この街だって過言じゃない。今や信じてる奴なんて頭の固い年寄りぐらいだろうよ。

じゃあ何でこんな話をしたんだって気になるよな? 察しの通り、この話には続きっつーか補足があるんだわ。さっきこの手の都市伝説は廃る云々ってのを言ったよな。じゃあ、そもそも何で廃るんだって事にならないか?

都市伝説が廃る理由……一言で言ってしまえば要するに信憑性がない。つまり実際に事が起こった所を見た奴が誰一人としていないからだ。

でも……でも、だ。これはオレ個人の解釈なんだが、神隠しってのは本当にあって、実は皆それがあった事を忘れているんじゃないかって思ったんだ。神隠しで冥界とやらへ連れられた奴は必然的にその存在を世界から消される……みたいな。

だから誰も知らない。大切なモノが消えてなくなっても平気でいられる。でも、知らないからこそ失った悲しみを受けないで済む。






そうでなければ、あるいは悲しみから逃れる為に自らその記憶を閉ざしたのかも……――――――



















なんてな。まぁ、これはあくまでオレの考えだ。深く気にするなよ。つーか、長くつき合わせちまって悪かったな。

ン? ……あぁ、まぁなんだ。ちょっとな、誰かに言いたい気分だっただけだ。






それじゃあな。













END
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