A requiem to give to you
- 夢と現の追複曲(2/3) -



忘れないで。

お前は確かに……にとって、とても大切な存在なんだ。

嫌いだと思う。きっと、……が思っているよりもずっとずっと憎んでるかも知れない。それでも……は、それだけは変わらないから。

辛いかも知れない。けど、お前には……なんかよりもずっと頼りになる人達もいる。

手を、伸ばしてくれる人がいる。






その手は、決して離さないでいてくれよ…───






「フィリアム?」



スッと、呼ばれた声に閉じていた目を開くと、どこか心配したような顔をしたグレイが覗き込んでいた。



「……兄貴?」



フィリアムはそんな彼にどうしたのかと言う意味を込めて返すと、途端に彼は呆れたような溜息を吐いた。



「兄貴?じゃねーよ、ったく。こんな公園のど真ん中でのんびりと寝てやがって」



しかも何だか魘されてたし、と続けられた言葉にフィリアムは首を傾げた。



「魘されてた?」

「そうだよ。覚えてねーのか?」

「……いや」



覚えてないと言うより、覚えがない。確かに夢は見ていたが、魘されるような内容だっただろうか。



「なんか、不思議な夢を見たんだ」



今までフィリアムが寝ていたベンチの隣に座ったグレイを余所に、フィリアムは未だにボーっとする頭で夢を思い出そうと考えた。

特に周りに何がある訳でもない、真っ白な空間にいた。何かをする訳でもなく、ただそこで立っているだけだった。しかし暫くすると、どこからか声が聞こえた。辺りを見渡してみたけれど、あるのはやはり真っ白な空間のみ。しかし気配は確かに自分の目の前にあるのだ。とても暖かい、光のように優しい……けれど、どこか儚く脆い気配が。そして何かを言っていた。

誰かだなんてわからない。ただ、自分に向けて言っているのだが……どこか自分じゃない誰かに言っているような、そんな感じがした。それを言うと、グレイはうーんと考えると「もしかしたら」と言った。



「被験者の記憶とかだったりしてな」

「被験者の?」

「オレはそっちの方面は全然詳しくねェからよくわからねーけど、生きてる物からの情報って言うンだから、そう言うのくらいありそうだな、と」



確かにそれは有り得ない話じゃない。それにこの間被験者であるレジウィーダと接触した時に垣間見えたあの記憶の断片のようなモノも、彼女が自分の被験者だからこそ、そう言った情報の共有みたいな事が起きたのだろう。……尤も、今はその被験者はどこかへと旅立ってしまった為にそれが真実かどうかは確認のしようがないが。

そうフィリアムが思っていると、グレイが思い出したように言った。



「そう言やよ、ずっと聞いてみたい事があンだけど」

「なに?」



そう聞き返せばグレイは珍しく言い辛そうに一度渋り、やがて少し声を潜めて言い出した。


「あのよー……凄く変な事聞くンだが、」

「うん」

「お前は元々……ってか、被験者が女だろ? ンでもってお前自身もそうだと信じて生まれた訳だしよー……」

「う、うん……」

「そう言う場合って、戸惑ったりしないか?」



色々と、と続けられた言葉にフィリアムは困惑したように頬を掻いた。



「あ……うん、最初は結構驚きはしたけど……なんか、すぐ慣れた」

「お前って………実はスゲー大物なのな」



思っていた以上にあっさりと答えたフィリアムにグレイは思わずそう突っ込んでいた。


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