A requiem to give to you
- チェンジ!チェンジ!(2/3) -


秋も深まる11月。中学最後の文化祭をあと数日と控えた学校では、それぞれのクラスでの出し物の準備に勤しんでいた。そんな中の、とあるクラスでの出来事である。



「うわはー……涙子、すごくカッコイイ!!」



目をキラキラと輝かせ、今にも涙を流しそうな勢いで感動をしているのは日谷 宙だった。そんな彼女の目の前には、黒い燕尾服に赤の蝶ネクタイを着け、そのウェーブがかった焦げ茶色の髪を一つに纏め、前に流した皆川 涙子の姿があった。



「ね、眼鏡も取ってみて!」

「こうかしら?」



スッ、と華麗な動作で眼鏡を外す。すると宙は感嘆の息を吐いた。



「ハァ、あたし……涙子となら結婚しても良いかも」

「あら、そう?」

「うん! ………て、事で嫁に来ない?」

「何でだよ」



せめて逆だろ、とツッコミを入れたのは桐原 聖。宙はそんな彼にいつもの「細かい事は気にしない♪」を返すと、彼の格好に首を傾げた。



「あれ? 聖ちゃん着替えてないじゃん」

「まだアイツ来てないし」

「でも、他の男子はもう皆着替え終わってるみたいよ」



涙子はそう言ってクラスの男子の方を見る。そこにはまさに天国なのか地獄なのかよくわからない世界が広がっていた。そんな世界から一人、紺色のワンピースにフリフリのレースの付いた白いエプロンを身に着けた男子生徒が三人の所にやってきた。



「日谷、皆川。こっちは桐原と坂月以外が終わったけど、女子連中はまだかかりそうか?」

「うーん、あとちょっとって所かな」



宙がそう答えると、男子生徒は「わかった」と頷いてまたあの所謂メイド服を着た集団の元へと戻っていった。それを見送った聖は頭を押さえて盛大な溜め息を吐いた。



「なんで……こんなことに……」

「それは、喫茶店だもの」



そう、喫茶店なのだ。それも巷で有名なあの執事&メイド喫茶と言うものだ。だがしかし、普通の執事&メイド喫茶では詰まらないと言う学級委員長の提案で、男子はメイド、女子は執事にと役割入れ替えが行われたのだ。世間ではこう言った行事での男装や女装と言うのは何故かとても人気があり、極数名を除いて反対をするものも居らず、事が決まってしまったのだ



「と、言うか誰だ。宙に学級委員長なんてやらせたのは」



碌な意見を出さないじゃないか。それどころか間違いなくコレは彼女の得にしかならないだろ。そう文句を垂れる聖に涙子は「そうでもないわよ」と言った。



「思った以上に皆楽しんでるみたいだけどねぇ」



貴方達が神経質なだけよ、と言う言葉にメイド軍団♂の方を見る。そこには宙も居て、何やら指示を出しているようだった。

その時、









ガラッ









「オイッ、テメッ……ら……離しやがれェエエエエッ!!」



左右からメイド♂に両腕を掴まれ、殆ど引き摺られるようにして今までどこかに姿を眩ませていた坂月 陸也が現れた。陸也は力一杯に暴れているようだったが、クラスでも一、二を争う相撲取り級の二人にはビクともしなかった。



「あら、やっと来たのねぇ」

「と言うか、普通に陸也の左右にいる二人が恐いんだけど……」



何たって相撲取り級の二人がメイド服を着ているのだ。目の毒にも程がある。そんな聖の言葉に涙目になりながら陸也は叫んだ。



「恐いなんて、モンじゃねー……こんなンに全力で追い掛けられてみろ。一気にトラウマになるわッ!!」



それは確かに、と思わずその様子を想像した涙子と聖は心の中で同意した。


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