A requiem to give to you
- 紅色の跡(2/2) -



「なん……だ、コレは………」



アッシュは執務室で一人、紙を見詰めて怒りに震えていた。彼の持っているのは彼に宛てられたら手紙なのだが、如何せんその文面及び内容が酷い物だったのだ。



《アッシュ師団長へ

突然ですが、長い旅に出てきます。

恐らく最後まであなたの部下としてはもう、働く事はないでしょう。

とても残念に思いますが、私にとってはとても大切な旅なのです。

だから………






どうか許してネ☆

短い間でしたが、ありがとうございました。

P・S
この間、アッシュが楽しみにしてたヴァン特製の鶏五目丼ね。

食べたのあたしなんだ。ゴメーンネッ(>人<)

by.レジウィーダ》



ビリビリビリビリ



アッシュは無言で手紙を破り捨てた。それからフッと笑い……



「あの女……
























ふざけんな屑がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ダンッ、と目一杯に机を殴りながら発狂していると、呆れたような声がした。



「つか、テメェも気付くのが遅ェンだよ」

「俺が悪いってのか!? ………って、どうしたその成りは」



振り向き様に文句を言ったアッシュは入口の扉に身を預けているグレイの姿に目を瞬いた。



「海に投げ落とされたンだよ。件の馬鹿女に」



そう言ったグレイは全身ずぶ濡れで、いつもセットで立てている狼を思わせる髪は成りを潜めていた。今は真冬、しかもこの地方には珍しい大寒波で雪まで降っている中、海に落ちるとは馬鹿の境地だ。しかしアッシュはその原因がレジウィーダだと知ると、途端に同情の眼差しを向けた。



「何か苛つくンだけど、その顔」

「同情してやってるんだよ」

「いらねーよ、ンなもん」



だからその顔やめろし、と舌打ちをするグレイにアッシュはふとある事を思い出し、問い掛けた。



「それよりてめぇはどうするんだ?」

「あ? なにが」

「レジウィーダが居なくなって、てめぇは追い掛けるなりしねぇのかよ?」



別にお前だって、いつまでもここに縛られている理由はないんだと言われ、グレイは肩を竦めた。



「良いよ。別に今からグダグダ旅に出たって面倒臭いし。それにオレ様がいた方が賑やかだろ?」

「お前と言う奴は…………騒がしいの間違いじゃないのか」

「ひでーな」



そう言うと「本当の事だ」と返されてしまい、思わず苦笑を浮かべた。



そう、オレがここを動かないのはただ面倒なだけ。決して、あの女に言われたからでも、任されたからでもない。



(オレが好きで、ここにいるんだ……)



「──………っくしゅッ」



不意に冷たい冷気を受け、くしゃみをしてしまった。



「おや、風邪ですか? 今日は冷えますからね〜。早くお風呂に入られた方が良いですよ」

「あぁ、わかってるよ……………って、え?」

「誰だ、てめぇ」



突然の第三者の登場に二人は訝しんで声のした方を見れば、グレイの隣には目深にフードを被った青緑髪の少年がいた。少年はアッシュの言葉に意外そうにキョトンとした。



「あれ? シンク参謀長から伺っていませんでしたか?」

「いや……」

「知らね。つーか、あいつさっき商業区にいたし」



少年の言葉に二人は首を横に振る。



「そうですか……あ、因みに私はクリフと申します。今日から特務師団副師団長になりますね」

「はぁ!?」

「ど、どう言う事だ!?」

「どうせ貴方達の事ですから、レジウィーダが辞職届を出した所で保留にしたのでしょう。だから彼女の抜けた穴を私が埋めましょう、と言ってるんです」



あ、勿論拒否権は与えませんよ〜。これでも私結構強いですからね。恨むなら彼女を保留にした自分達を恨んで下さい。

言いたい事だけ言うとクリフは意気揚々と鼻歌を歌いながら執務室を出て行った。



「「……………」」



残された二人は彼の出て行った扉をただ呆然と見ている事しか出来なかった。






これからがホントの波乱の幕開け………に、なるのかも知れない。












END
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