A requiem to give to you- 拝啓、古き友へ(2/3) -
拝啓、今年の寒さは別格にございますね。彼の地では如何お過ごしでしょうか。
此方では毎年恒例となりつつある、ダアト風邪なども流行っています。
ダアト風邪と言えば、貴方は昔からどうにも身体が弱く、よくこの風邪にかかっていたものですね。
それを良い事に人を散々に使いっ走りにしたり、いつも以上に我が儘放題、好き勝手にやってくれやがったのは今では良い思い出…………───
「……な、訳あるか。アホ」
「アホはお前だアホったれ」
パンッと小気味の良い音がローレライ教団総本山ダアトにある、教会の裏庭にて響き渡った。ドサリと音を立てて床にご挨拶をした金髪の男の目の前には、教団でも本当に僅かな人間しか知らない、前導師こと被験者イオンの墓がある。
「て、言うかさー。仮にも元導師サマの墓前でシュークリーム貪りながらアホはないでしょ」
全く、と盛大に溜め息を吐いたのは目深にフードを被った少年、クリフだった。その手には白く輝くハリセン(本当に紙性なのかかなり怪しい)が握られていた。
「貴様………何しやがる」
むくりと起き上がった金髪の青年……トゥナロは痛そうに頭を擦ると、倒れた拍子に破裂したシュークリームを顔にベッタリと付けたまま杖を取り出しクリフに振り下ろした。
しかしクリフなんなくそれを避けたのだった。
「それはこっちの台詞。レジウィーダに一番重要な説明一つまともにしないで何やってるの」
「え? お供え」
「食ってたよね。明らかにそのお供え物食ってたよね? 今も小さなお子様みたいに顔面クリームだらけにしてるしさ」
「それはお前のせいだろ。……じゃあ、お裾分けって事で」
「どう見たって君が一人で食ってるようにしか見えなかったよ」
しかもじゃあって……、と再び溜め息を吐くクリフにトゥナロは面倒臭そうに舌打ちをした。
「全く、一々細かい奴だな。墓参りくらい静かにさせろ」
「墓参りする気あったの? いや、それよりも……」
クリフは小さな墓石を振り返るとどこか複雑そうにそのフードから覗く口元を歪ませた。
「必要あるのかい?」
それにトゥナロは顔のクリームを拭き取り、小さく笑った。
「良いんだよ。これはオレの自己満足なんだ」
トゥナロは墓石を優しい手付きで撫でる。しかしその表情はどこか悲しみを帯びていた。
「結局、オレでは救えなかった……古き友へのせめてもの手向け、ってな」
そう言ってどこから出したのか、「チーグル製菓」と書かれた紙袋からシュークリームを二つ程取り出すと、墓前に供えた。そんな彼の様子をクリフは詰まらなさそうに一瞥すると、最後の一つを備えようとしていたトゥナロの手からシュークリームを奪って食べた。
「古き友、ね」
「命の恩人だったんだよ。オレがこうして"此処"にいるのは、…………イオンのお陰なんだ」
「ヘェ」
クリフはトゥナロを鼻で笑った。
「その命の恩人に暗殺を企ててたなんて、とんだ仇返しだね。
トゥナロ・カーディナルさん?」
「……暗殺?」
クリフの皮肉に不思議そうに首を傾げたが、直ぐに思い至ると手を叩いた。
「あぁ、アレか。アレは彼奴らが知らない間にオレの持ってた情報をパクったらしくてなぁ……気付いたら勝手に暴走してた」
何とも悪びれた様子もなくあっけらかんと答えたトゥナロにクリフは呆れた。
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