A requiem to give to you
- 燃える灰焔の午前(2/7) -


清々しい朝の日差しが照りかかる特務師団執務室。今日は特に任務もなく、団員達は修練場へと向かい鍛錬に励む。師団長でもあるアッシュはそんな兵士達の指導に当たる為、訓練用の木刀を片手に部屋を出ようとした。

その時、



「おっはよーござまぁーす!!」



今まさにドアノブに手を掛けた瞬間に勢い良く扉が開き、元気な挨拶と共にレジウィーダが顔を出した。



「あれ、アッ君そんな所で何してんの?」



扉に顔面を打ち付けると言うお約束をかましたアッシュは部屋の入口で蹲っていたが、レジウィーダの呑気な問いにゆっくりと顔を上げた。気のせいか、その背後には般若が見えたような見えないような……。



「てめぇ……もう少し静かに入って来れねぇのか!!」

「あ、もしかしてドアにぶつけっちゃった?」

「もしかしても何も、思い切りクリーンヒットしたわ!!」



そう言って立ち上がったアッシュの赤くなった鼻頭を見てレジウィーダは漸く悪い事したのだと思い「うわー、ごめん」と申し訳なさそうに謝った。



「〜〜〜っ、もう良い! とにかくてめぇは今日アレを片付けておけ」



後ろに向けてアッシュが指差した先には山の様な書類が重ねられていた。



「えーまたぁ!? 昨日も漸く三日かけてやった書類が終わったばっかなのに!」

「安心しろ。今回は流石に量が多いと思ってな、半分は既に俺が片付けておいた」

「半分片付けてまだコレ……」



絶句以外の何物でもなかった。と言うか、いつその半分を終わらせたのだ。



「アッシューマジで勘弁してヨー。てか、あんまり座りっぱだとその内痔になっちゃうヨー。どうすんの年頃の娘が痔とかさー。悲しすぎて死んじゃうヨー」

「女がんな事を堂々と言うんじゃねぇ!! それと語尾をカタコトにするなあああ!!!」



いいか、とアッシュはレジウィーダを椅子に座らせる。



「これが師団を纏める奴らの仕事なんだよ。だが、てめぇはまだ良い方だ。これがもっと上の奴らだったらこれ以上の仕事量だぞ」

「例えば導師とか王様級の人とか?」

「そうだ」

「うわー……て、事は世の偉い人は皆お尻を痛めてるんだね……」

「その話題から離れろ!!」



可哀想に……と変なところで嘆くレジウィーダの脳天にアッシュの手刀が決まる。



「とにかく、だ。俺はこれから演習に行ってくる。後は頼ん………んだっはぁ!?」

「いやプー♪」



踵を返し部屋を出かけたアッシュを踏み台にし、入ってきた時と同じく勢い良く先に飛び出したレジウィーダはそう言って一目散に走り去っていったのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







部屋を飛び出したレジウィーダはお馴染み、裏庭に来ていた。



「ったく、アッシュもヴァンもいっつも大量に書類の山を押し付けやがって!」



あの量は絶対に一つの師団が処理する量じゃない。他の師団や下手をすれば上の仕事まで回されている可能性もある。



「あたしは都合の良い仕事処理機かってのもー!!」



両手を上げて叫ぶも、あまりスッキリとしない。仕方なく草の上に寝転がり、空を見つめた。



「あたしだって、外の任務とかしたいし……」



一緒に入団した幼馴染みはもう何度も街の外に出て任務をこなしていると言う。恐らく彼は任務を行いながらも他の二人を捜したりもしているのだろう。

しかし自分はどうした事だ。未だに街から出た事すらない。何度謡将に掛け合ってみるも、何故かその度に書類の山が追加されるのだ。そう思うと何だか無性に憤りを感じずにはいられなかった。



「あークソッ、ムカつく!! …………ん?」



勢い良く起き上がった時、ポケットから久しく使っていなかった携帯電話が転がり落ちた。


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