A requiem to give to you
- 鳴泣の教会・ダアト(2/7) -


最近、ダアトにお化けが出ると言う噂があった。毎夜毎夜、女の啜り泣く声がダアトの一番高い所、ローレライ教団教会の天辺から聞こえて来るのだ。下町では悪魔襲来だの死神の降臨だの、天変地異の前触れなどと言ってちょっとした恐怖の対象となっている。また、教団関係者も例外ではなく、兵士に至っては夜の警備を何かしら理由を付けて休む者が増えてきた。

兵士達でさえこれなのだから、教会の最も高い位置に部屋を持つ導師や大詠師への被害は既に小さなモノではなくなっていた……。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「…──と、言う訳でお願いなんだけど」



コトン、と手に持っていたカップを置きながらアニスは言った。その表情がどこか痩けて見えるのは、彼女の心労の現れなのだろう。



「一緒に幽霊の正体を暴くのに協力して欲しいの!」



一通り彼女から話を聞いたレジウィーダは口に含んでいたお菓子を飲み込むとうーん、と考え込んだ。



「幽霊、かぁ。てか、イオン君達は今の所大丈夫なのか?」

「あんまり大丈夫とは言えないかも。只でさえ体が弱いのに、あの訳のわからない泣き声のせいで寝不足になって余計にフラフラだよぅ」



レジウィーダの問いにアニスは首を横に振りながら答えると、両手で頭を抱えた。



「もう、どうしようぅ〜。警護の兵士役に立たないし、モース様には「早く何とかしろ」って怒られるし……つーか、こっちだって問題解決しようとずっと前から動いてるんだっちゅーの!」



マジふざけんなあの豚大詠師少しは労りやがれっ。

アニスはその顔に似合わずドスの効いた声で今は自室で寝ているであろう大詠師にそう悪態を吐いた。



「馬っ鹿じゃないの」



そう言って鼻で笑ったのは二人から少し離れた所で話を聞いていたシンクだった。



「悪魔に死神、終いには幽霊? そんなの居る訳ないだろ」

「何よシンク! 嘘だって言うの!?」



シンクの態度にカチンと来たアニスがテーブルを叩きながら立ち上がった。その振動でお菓子の入ったお皿が浮かんだのをレジウィーダが見事にキャッチしていたのを知るのは、更に離れた所でキッチンを弄っていたグレイだけだった。

因みにここはヴァンの執務室。本人(とリグレット)が任務やバチカルへの出張中は六神将やその補佐達が(勝手に)憩いの場としている。何故かキッチンもある為、(これまた勝手に材料を使って)料理やお菓子を作って皆で食べたりもしていた。……とは言っても、これは大抵グレイかレジウィーダがいた時のみの話だが。



「大体、何でアンタがここにいるのよー!?」

「何って、普通に休憩に来ているだけでしょ」

「え、あたしに会いに来てくれたんとちゃうの?」

「違うから、それは絶対にないから! 敢えて言うならボクの目的寧ろこっちだし!」



割って入って来たレジウィーダの言葉を否定してそう言ったシンクが示したのは、たった今グレイがテーブルに置いた焼き上がったばかりのクッキーだった。

アニスはうわ、と数歩下がった。



「だっさ、アンタその年になってお菓子に目を光らせて……って、グレイ!?」

「……ンだよ、さっきから忙しねェやっちゃなー」



煩いのは馬鹿女だけしろよなー。

それにレジウィーダが「何がだ!」と言っていたが、アニスは構わずクッキーを指差した。



「いや、だってこれ……グレイが作ったの!?」

「つい今の今までそこで作ってただろーが」

「じゃあ、さっきレジウィーダから貰ったお菓子も……」

「何故コイツが我が物顔で差し出してたかはわかンねーけど、そうだよ」



文句あンのか、と言いたげに腕を組むグレイにアニスは何故かショックを受けたように「はぅあぁ〜」と頭を抱えて回した。



「何か……イメージが」

「クールなイケメンってイメージ?」

「「そりゃナイナイ」」



レジウィーダとシンクが同時に否定する。ついでに焼き上がったクッキーを頬張った二人に直ぐ様グレイが何か文句を言うのはもうお馴染みな光景とも言えた。


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