A requiem to give to you
- 萌ゆる焔の午後(2/4) -



よく晴れた午後の空。洗濯物なら直ぐにでも乾きそうな心地のよい気候。そんな春の暖かな日には、つい欠伸が出てしまうのは致し方ないだろう。こんな日には素直に昼寝をするに限る。そう思って読んでいた本に栞を挟んで閉じ、ベッドに横になった矢先、それは否応なしにタリスの耳に入ったのだった。



「ルーク様、どこへ行かれたのですか!?」



……と。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







今日はルークの勉強会の日で、専門の家庭教師も邸に見えている。しかし決まって彼は勉強会の前に姿を眩ませ、ガイを始めメイド達や白光騎士団の方々が総出でルーク探しを始めるのだ。邸内にいるとは言え、この広さだ。隠れる所なんて腐る程ある。それに総出で探すと言うのだから、当然使用人となっているタリスやヒースも彼を探さなければならない。恐らくヒースは既にガイ辺りに連れられて探し始めている事だろう。そう思いつつもタリスはその場から動こうとはせず、顔だけを何の変鉄のない棚に向けていった。



「レディの寝ている部屋に無断で入ってくるのは、どうなのかしらねぇ?」

「げっ………バレてたのかよ!?」



そう言ってガタガタと棚の中から出てきたのは現在使用人達が必死こいて捜しているお坊ちゃんだった。見付かった事が不服らしく、ブスッと顔を顰めて問い掛けてきた。



「いつから気付いてたんだよ?」

「外が騒がしくなってきた辺りから。明らかにこの部屋の空気が変わったわよ」



どれだけ焦っているのよ、と起き上がってベッドから降りながら言うとルークは明後日の方向を向いた。



「だって………勉強なんてやりたくねーんだもん」

「だもんって、貴方ねぇ。なら逆に訊くけれど、どうしてそんなに嫌なの?」

「………………」



そう問うと急に黙り込んでしまった。



「ルーク?」

「つまんねーし……それに俺がちゃんと出来ないからって、あいつらいつも「前のルーク様は〜」なんて言うんだぜ!?」



そんなの毎回聞きながら勉強なんてやれるかってーの!、と言う彼は怒ってはいるものの、それがどこか悲しそうに見えた。

彼……ルークが数年前に起こった事件で記憶障害に遭ったと言うのは知っている。その当時はまるで赤ん坊の様だったと彼の御付きの使用人は語っていた。しかしそれは前の"ルーク"を知る者からすれば信じられ難い事であり、シュザンヌやナタリアを始め沢山の人々に衝撃を与えた。

昔の"ルーク"はとても生真面目で勤勉家だったと言う。また立ち振舞いも未来のキムラスカを背負う者としての自覚と威厳を持った素晴らしいもので、現陛下や周りの貴族家らからも一目置かれていたらしい。だからこそ尚更、今の変わり果てたルークに周りは焦っているのだろう。特に勉学等の知識関係に対しては、今までが今までだけに出来るだけ早く元の"ルーク"と同じにしたいのだ。



(まぁ、気持ちはわからなくはないんだけどねぇ……)



だからと言って本人にやる気がないのに無理にやらせるのもどうかとも思う。況してや前の自分など知りもしない彼と昔の彼自身を比べながらだなんて、性質が悪い。自分ならばそんな人からは絶対に教わりたいとは思わない。



「そこら辺はもう少し、考えて欲しいものよねぇ」

「全くだぜ! ……あーあ、これがヴァン師匠だったらスッゲー良かったのになぁ……」



はぁ、と溜め息混じりに呟くルークにタリスはどことなく懐かしさを感じたのだった。
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