A requiem to give to you
- 破滅を望む者(2/4) -


人気のない暗く長く回廊。誰もが寝静まったこの時間、起きている者がいるのは酷く奇特だ。況してや今己のいる場所は本来ならば昼夜問わずある一部の許された者以外が安易に立ち入って良い場所ではない。

そんな場所を平然とある歩き続ける男、ヴァン・グランツはその“許された者”故、この暗く長い回廊の進む先にある者の部屋へと足を運ぶ。



コンコン



『……誰ですか?』



辿り着いた一室の前に立ち、静かに扉を叩くと部屋の中から声が返ってきた。



「ヴァン・グランツ謡将であります」



階級と名を名乗ると直ぐに扉が開いた。……が、しかし出てきたのは先程の声の主とは違う小柄な少女だった。少女は小さく礼をするとヴァンを招き入れ、部屋の奥へと案内する。そして机に向かって書類を見つめている少年に声をかけた。



「イオン様、総長を連れてきました」

「ありがとう、アリエッタ」



イオン……ローレライ教団の頂点に立つ若き最高指導者。預言によって定められた命運によりその座に身を置いた彼は、年齢よりも大人びた優しい笑みで返し、ヴァンを向いた。



「また随分と遅い時間に来ましたね」

「申し訳ありません。少し仕事の方が手間取っておりまして……」



そう言って深く頭を下げるとイオンは「そうでしたか」と呟いて頭を上げさせた。



「アリエッタ」

「はい、です。イオン様」

「少しヴァンと話があるから、誰も入って来ないように部屋の前で見張っててくれないかな」



お願いね、と申し訳なさそうに頼むイオンに嫌そうな顔一つせず嬉しそうに返事をし、アリエッタは隅で寝ていたライガを伴って部屋から出て行った。



「相変わらずですな」



アリエッタの背を見送りながらそう言うと、クスリと笑う声が聞こえた。



「あの子はとても良い子だよ。何があろうともいつも僕の為に動いてくれている」

「特務師団の方でも大いに貢献してくれていますよ」

「そう……………さて、」



ヴァンの言葉をイオンはまるで自分の事のように喜んでいたが、不意にその纏う空気を変えた。



「お前が手間取っていたと言うその仕事だけど……ちゃんと綺麗に終わらせたんだろうね」



表面だけは先程と同じ笑み。しかしその声は冷たく、まるで氷柱針のような鋭さがあった。



「無論……ですが、どうやら例の計画の情報がどこからか漏れているようです」

「そんな事は知ってるよ。でなきゃあいつらが僕にあんな事を言ってこないもの。只でさえ今の時期は軍の人事異動やら"僕"の教育やらで忙しいんだから、あんまり余計な手間をかけさせないでほしいね」



それに再び申し訳有りません、とヴァンは言おうとしたが、イオンがそれを遮るように話題を変えた。



「そう言えば、例の異世界から来た奴のもう片方に会ったよ」



それに微かに反応を見せたヴァンは「どうでしたかな?」と問い掛けた。するとイオンは頬杖を着きながら詰まらなさそうに返した。



「只の世間知らずの馬鹿。その上向こう見ずで、更にはかなりの頑固者。正直、あのままじゃ軍に入って任務に出ても自分の力を過信して無駄死にするよ」

「辛口ですな」



苦笑しながらそう言うと「本当の事だからね」と返って来た。



「でも、才能はあると思うよ」



違う世界の技術で譜術を扱うなど、何が起こるかわかったものじゃない。でも彼女は完成こそさせなかったが、基本型はしっかりと出来ていた。



「お前もこのまま放置しておくわけでもないんだろう?」



大事な手駒の一つにするのなら、さ。


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