Rondo of madder and the scarlet
- 夏祭り -

【1/2】


年に一度の盆祭り。茜達は中央公園で開かれているそれに来ていた。



「すっげーなぁ!」



色とりどりに輝く提灯。心地良い太鼓や音楽に賑わう人々。中には鮮やかな浴衣でめかし込む者もいて、それが一層華やかさを醸し出していた。

そんな光景にルークから感嘆の声が漏れるを聞いていた茜もまた、今は百合の花が描かれた瑠璃色の浴衣を身に纏い小さく笑っていた。



「ルークはこう言うのは初めて?」



茜が聞くと彼は勢い良く頷く。それがまた小さな子供のようで、微笑ましい。



「ああ、祭り自体は何回か行った事はあるけど、こう言うのは初めてだよ!」



こんなのも初めて着たし、と自分の着ている浅葱色の甚平を差しながら言うルークに茜は更に嬉しそうに目を細めた。



「そっか。なら、楽しんでもらえて良かった」

「そうそう、祭りは楽しんでなんぼだからねー……………あ」



茜が言うと彼女の隣りで綿飴を食べていた宙もうんうん頷いていたが、途端にピタリと動きを止めると、直ぐに自身の紺色の浴衣の裾を軽く持ち上げるとあの大きな樹に向かって走り出してしまった。



「え、ちょっと宙!?」



慌てて茜も追い掛けようと足を踏み出したが、格好が格好なだけに走り辛く無理に勢いをつけたせいでバランスを崩してしまった。



「あ……!?」

「おわ……っと、大丈夫か?」



寸での所でルークが支えてくれた事により、何とか転ぶ事は免れた。茜は一つ深呼吸をするとゆっくりと体制を直して頷いた。



「うん、ありがとうルーク」

「ああ。でも気をつけろよな。唯でさえ人も多いだし、急に走り出したら危ないぞ」

「うん」



たった今身を持って知りました、と苦笑を漏らす茜にルークも同じように返した。

それから二人は直ぐに宙の駆けていった方に歩き出した。メインの盆踊りが行われている中央広場を抜けた先にある樹の前には宙と、見覚えのある人物らが楽しそうに雑談……



「テメ……ッ、いきなり綿飴突っ込むンじゃねーし!」

「あはは、変な顔ー♪」

「いや、変と言うより間抜け顔と言った方が良いんじゃないか?」

「あの、それってどちらも意味が変わらないと思います」

「何にせよ、油断大敵って事やなぁ、ははは……あたぁっ!?」

「きゃっ!?」

「いてっ」

「、………」



………雑談?

目の前でテンポ良く頭を叩かれていく人々(しかも約一名はかなり本気で叩かれていた)の光景を見ながら茜は何とも言えない気持ちになっていた。しかしルークは別に気にしていないのか、変わらずあの愉快な一団(?)に向かって話し掛けた。



「おーい!」

「おお! ルーくんにあーちゃんも来とったか!」



いち早く返事を返したのは、一番強く叩かれていただろう睦だった。相変わらず復活の早い事だ、と内心感心していると愛理花と桐原もこちらに歩いて来た。



「茜ちゃん、ルーク君こんばんは」

「君達も来てたんだね」

「こんばんは」



挨拶を返して、それから三人の後ろの方で何やら揉めている宙と陸也を見た。



「それで……あれは一体どうしたの?」



それに答えたのは桐原だった。



「宙があいつの苦手な物でちょっかいをかけたんだよ」



まぁ、いつもの事だから放っておいて良いよ。そう言って肩を竦める桐原に睦も同意する。愛理花だけは、この事態には慣れていないらしく困惑しながら桐原達と向こうを交互に見ていたが。



「あの、桐原君。本当に止めなくて良いんですか?」

「止めるほどの物だと思う?」



愛理花に桐原がそう切り返して、一同は一斉に宙達を見た。



「大体テメェはいつもいつも猪突猛進すぎンだよ! 少しは落ち着けと何度言ったらわかりやがる」

「ちょっと! まるであたしが何も考えずに突貫してるような言い方やめろよな! あたしだって常に色々考えながらやってるんだから」

「じゃあ今何を考えてるか言ってみろ」

「聖ちゃんの隣にいた可愛い子ちゃんをどう愛でるかだゼィ☆」



成る程、実にどうでも良い。事実、既に本来の喧嘩から内容が思いっきり外れているし、寧ろ止めに入る方が危ないだろう。


「て、言うか宙ってみんなと知り合いだったんだな」



うん、それはわたしも初めて知ったよ。




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