call me.1 | ナノ


言葉にならずに消えていく。
ずっと、言いたくて、言えないことがあるーー。



今日は仕事終わりのミツルさんと待ち合わせて、一緒に夜ご飯を食べに来ていた。

「おいしかったね。白くんも、大分食欲戻ってきたみたいだし」

デザートのアイスを口に運ぶ僕を見て、ミツルさんはコーヒーを口に運びながら嬉しそうに笑った。
そんなミツルさんの笑顔が嬉しくて、だけどどこか照れ臭くて。

「だって、きちんと食べないとアイス駄目って言うから…」

「そうだね。白くんは偉いね」

照れ隠しというのはわかっているんだろう。そう言ってアイスを頬張った僕を見て、ミツルさんは楽しそうに頷く。
子供扱いするようなミツルさんの言い方が、最初は恋愛対象として相手にされていないようで嫌だったけれど。それがミツルさんの愛し方だとわかれば、気にならなくなってしまうから不思議だ。
大切に、愛おしく想ってもらえているのだと思うと、それすら嬉しくすらなってしまうのだから。
ーー今なら言えるかもしれない。ちらりと盗み見たミツルさんのコーヒーを啜る穏やかな表情に、僕は緊張を隠しながら口を開いた。

「ねぇ、ミツルさん。僕ーー」

僕、ミツルさんの家に行きたい。そう言おうとした言葉は最後まで言い終わることなく、ミツルさんに遮られた。

「もうこんな時間だね。デザート食べ終わったら、送っていくよ」

優しい笑みを浮かべながら言われたその言葉は、柔らかな筈なのに、反論を許す気配がなくて。

「…ん、わかった」

僕は、今日も言いたかった言葉を飲み込んだーー。






call me.







『…白くんは、バカだね。ーー俺も、白くんが好きだよ』

ミツルさんが、そう言って僕の気持ちを受け止めてくれてから三週間ちょっと。
九月に入ったとはいえ、暑さが落ち着くことはなくて。両想いになってすぐに公園に行くのを禁止されてしまってからは、ミツルさんに会えるのは、ミツルさんの仕事が早く終わった日の夜や休日だけになってしまっていた。
もっと一緒にいてお昼を食べたり、話をしたりしたいのに。そう思うけれど、一度熱中症で倒れてしまった僕をミツルさんが心配しているのはわかっている。
わかっているから、公園に行くことを止められた時も、これ以上心配させたくなくて、反論しないで素直に聞き入れた。それでも、やっぱりもっと一緒にいたいのは我慢できなくて。

「仕事、明日は早く終わる? 忙しい?」

ミツルさんがいつも送ってくれる僕の家の傍に着いてしまうと、繋いでいた手はそのままに、僕は別れ際のお約束のようになってしまっている言葉を口にした。
その言葉に、ミツルさんはクスクス笑って僕の頭を優しく撫でるも、すぐに苦笑を浮かべれば歯切れ悪く言う。

「うーん、明日はちょっと遅くなりそうなんだ。…ごめんね」

明日は会えない。その言葉に、僕の気持ちは萎んでしまった。

「そっか。…なら、仕方ないよね」

ミツルさんは働いているんだから、僕と遊んでばかりはいられない。わかってる。仕方ない。良い子でいなきゃ。
僕は頭の中で、自分をなだめる言葉を何度も繰り返す。けれど、不意に繋いだ手が強く握りしめられて、はっと我に返った。
見上げれば、困ったような笑みを浮かべるミツルさん。笑いながら言ったつもりだったけれど、僕の笑顔は失敗してしまっていたらしい。
困らせてごめんなさい。そう、僕が口にするよりも早く、ミツルさんが口を開いた。

「ご飯は無理だけど、仕事終わってからちょっとだけ散歩しようか」

「!! するっ!」

願ってもないミツルさんからの提案。二つ返事で頷いた僕に、ミツルさんはくすりと笑って僕の頭をくしゃりと撫でた。

「仕事が終わったら迎えに行くよ。ーーだから、それまでに夜ご飯をきちんと食べておくこと。約束ね?」

僕が一人だときちんとご飯を食べないことをわかっているミツルさんの、その言葉が嬉しくて。僕ははにかみながら頷く。

「ん、わかった」

「いいこ」

安心したように息をついたミツルさんの手が、僕の頬を撫でて離れた。あぁ、もう別れなきゃいけないんだ。
顔に出てしまったのだろう。離れていった手が、もう一度僕の頭をぽんぽんと撫でたかと思うと、少し申し訳なさそうにミツルさんが口を開いた。

「もう遅いから、お家入ろう? あとでメールするから、ね?」

言い聞かせるように言うミツルさんの言葉に、僕はこくりと頷いた。ミツルさんが、困っちゃう。

「メール、待ってる」

「うん、必ず送るよ」

そう頷いたミツルさんが、ゆっくりと繋いだ手を離した。

「ミツルさん…」

ーーぎゅってしてほしいな。そう言いたいけれど、言えなくて。僕はじっとミツルさんを見つめる。けれど、僕の想いは伝わらない。

「おやすみ、白くん」

そう言って優しく笑うと、ミツルさんはもう一度僕の頬をそっと撫でた。

「…おやすみなさい」

ぽつりとそう返して、僕はミツルさんの視線を背中に感じながら、家の中へと入ったーー。






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