13.狼は今日も眠れぬ夜を過ごす。 | ナノ


「ん…すぅ…」

ライトを落とした寝室の中で聞こえる、穏やかな寝息。自身に甘えるように身体を擦り寄せて眠る愛しい恋人ーー晴(はる)のものだ。

『司狼(しろう)さん、ぎゅってして』

『もっと、キスしてください…』

眠りに落ちる間際まで、そう言って甘えてきた晴を思い出せば、俺は盛大な溜息をついた。
それだけ聞けば可愛いおねだりなのだろう。だが問題なのは、それがその先の行為を強請る言葉などではなく、本当にただ抱き締めてキスをして欲しいというだけということだ。
結果、甘える晴を腕に抱き、キスをしてやっているうちに、腕の中から幸せそうな寝息が立ち始める。
もちろん、自身の下半身に生まれた熱は、発散させてもらえる筈もなく、内に燻ったままどうすることも出来ないわけで。
ーー義務教育が終わるか終わらないくらいの頃から、一人きりで生きてきたという晴。そのせいか、しっかりした印象に反して、案外幼いというか甘えたな一面があるのを知ったのは、付き合い始めて少ししてからだ。
そんな晴が、自分には安心して甘えてくるのを思うと、愛おしいし、おねだりにだって応えてやりたくなるのは恋人として当たり前の感情だろう。
ーーそれでも、一か月もこのお預けが続いていれば、そんな心広いことばかり言っていられる筈もない。

「…いい加減犯すぞ?」

いつもよりもトーンの下げた声で、眠る晴の耳元にそっと囁く。だが、その声かけに僅かに身動ぐも、起きる気配はなく。
それでも無意識にか、自身の肩口に、甘えるように擦り寄ってきた。

「っ…お前が悪いんだからな」

欲情の混じった声音でもう一度囁くも、やはり反応はない。
俺は、晴の形の良い小さな耳に柔く噛み付いた。初めて口に含むそれは噛み千切れそうなくらいに柔らかい。耳の穴に舌先を差し込んでみると、擽ったいのかピクッと晴の身体が震えた。
ーー可愛いな。無意識にクスリと笑みが漏れた。晴の背中へと回していた手を、パジャマの裾から内側に忍び込ませれば、成人した男にしては細い腰を撫でやる。

「……ふ…ぁ」

可愛い声が漏れるものの、起きる気配はないようで。晴の腰から背中に手を這わせながら、パジャマを捲り上げる。露わになった白い素肌に目が奪われた。
自身の下半身の熱が僅かに上がったのを感じ、俺は思わず苦笑を漏らした。このくらいで反応してしまうなんて、青臭いガキのようだ。

「晴…」

胸元で控えめに存在を主張する、ピンク色の突起へと手を伸ばそうとした、その時だった。

「ーーしろ、さ……」

不意に呼ばれた名前にはっと顔を上げるも、そこにあるのは変わらず眠り続ける晴の姿で。
…起きたわけじゃないのか。思わずほっと息をついてしまったのは、寝込みを襲っている罪悪感があるからかもしれない。
どうしたものかと暫し眠る晴を見つめていたものの、再び漏らされた言葉にはっと瞳を見開いた。

「司狼さ……だい、すき…」

「っ…!?」

不意に伸ばされた腕に自身の腕が掴まれたかと思うと、相手の胸元へと引かれ、そのまま抱き締められる。その瞬間、眠るその顔には幸せそうな笑みが浮かんだ。
ああ、本当に、こいつはーー。

「…チッ」

こんな顔をされたら、泣かせるようなことを出来るわけがない。
少し乱暴に腕に絡まる晴を引き剥がすと、俺はベッドから身体を起こした。
ベッドサイドのロックグラスに手を伸ばし、中に半分程残っていた酒を、一気に流し込む。氷が溶け、水っぽくなった酒はぬるくて不味い。
下半身の熱は冷める気配がない。

あぁ、今日も愛しい恋人のせいで寝不足だーー。




狼は今日も眠れぬ夜を過ごす。







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