貴央(きお)は強い。
強いというのは、心が、という意味だ。
誰にも甘えず、流されず、自分を貫く強さ。誰とも群れずに、一人で生きているような貴央を、俺ーー成(なり)は自分のものにしたくなって、俺の粘り勝ちのように俺達は付き合うことになった。
「…成、重い」
昼休みの屋上。次の数学の予習をしているらしく、俺に見向きもせずにいる貴央に、勝手に膝枕させるように転がれば、視線は教科書から外さないまま不満の声が呟かれた。
「貴央が構ってくれるなら退く」
「……」
貴央は俺のその言葉に少し黙り込んだ後、面倒臭そうなため息をついて、教科書に意識を戻した。俺を構うことよりも、重いのを我慢することを選んだらしい。
貴央の膝枕は好きだが、構ってもらえないことを不満に感じるのも仕方がないことだろう。
教科書を真剣に睨む貴央を暫し見つめた後、俺は貴央の背中へそっと腕を回した。スラックスの中に綺麗に入れられたシャツの裾を引き摺り出し、そこから手を忍び込ませて、白い素肌を弄るように撫でる。
「……んッ」
全体的に撫で回した後、尻の窪みに指先を滑らせれば、頑なに無視を決め込んでいる貴央の口から切なげな声が漏れた。
「気持ち良かったの?」
「馬鹿やろ…」
意地悪くそう言って笑えば、貴央の口から文句がこぼれる。頑なに教科書から視線を外さずにいるが、それはもうポーズなだけで教科書の内容が頭に入っていないのは明らかだった。
そんな貴央が可愛くて、指先で尻を弄り続けるも、それ以上深く触ろうとした俺の手は、緩められていないベルトに邪魔され、舌打ちをする。
それでも、本気で抵抗する様子のない貴央に、もう片方の手をベルトに伸ばしたその時だった。
ーーキーンコーンカーンコーン
空気を読まずに鳴り響いた予鈴に一瞬手を止めるも、すぐに無視してベルトを外そうと手を動かそうとしたのだがーー、
パシッ
「ちょ、貴央?」
はたき落とされた手に不満げに貴央を見上げた。だが、貴央は何事もなかったように、膝に乗る俺の頭を押し退け立ち上がれば、乱れたシャツを綺麗に整える。
教室に戻る気満々らしい。ーーけどまあ、もちろん俺には素直に戻らせる気はない訳で。
「…どこ行こうとしてんの?」
立ち上がり、教室へと戻るドアを開けようとする貴央に近付くと、開けかけの扉を無理矢理閉め、貴央の身体を抑える。両足の間に片膝を割り込ませれば、貴央の自身に、既に熱を持ち硬くなった自身を押し付けた。
「…勃っちゃった」
「っ、んッ…ふ…」
顔を近付けて笑いながらそう言えば、俺は貴央の唇を噛み付くように奪い、その舌を絡め取るように貪る。
堪えきれずに漏れる甘い声に再びベルトに手をかけようとしたが、それは予想外の痛みに阻まれた。
「ッ!! 貴央、てめッ…」
舌を噛まれた。
「勝手に盛ってくる奴が悪い」
睨みつける俺を物ともせずに、貴央は先程まで甘い声を漏らしていたのを微塵もにおわせない冷静な声でそう言い捨てて、ふぅと息をつく。
「俺は、お前のためにサボる気はないんだよ」
「…へいへい、わーったよ」
ここまで拒否されれば、これ以上仕掛けたところで無駄だろう。俺は投げやりにそう言うと、授業をサボることに決めて、そのまま不貞寝しようと転がる。
貴央のことだから、これ以上俺に構うことはなく、一人でさっさと教室へ戻ってしまうだろう。そう思っていたが、傍に立つ貴央が立ち去る気配はない。
「良いのか? …良い子にしてたら、ご褒美やろうかと思ったんだけど」
訝しげに思い始めたところで、不意にすぐ近くで呟かれた言葉に顔をそちらに向けた。
「っ…!?」
次の瞬間、シャツの襟首を掴んで引き寄せられたかと思うと、唇に柔らかな貴央の唇が押し付けられる。
一瞬で離れていったそれに驚き言葉をなくしていれば、既に俺に背を向けていた貴央が振り返り一言言い放った。
「…まあ、授業サボる奴にやるご褒美なんかないけどな」
それだけ言ってしまえば、これ以上構う時間はないと言うように俺に背を向けて歩き出していく。俺ははっと我に返ると慌ててその後ろ姿を追いかけた。
あんな風にキスをやり逃げされて、サボっていられる訳がない。
「…貴央、お前覚悟しとけよ?」
追いつき、隣に並んでそう言った俺を、貴央は横目で流し見た後、艶を含んだ笑みを浮かべて挑むように言った。
「…放課後にな」
自身の言葉に対する肯定のようなそれに、俺は、悔しさを隠すように笑みを返す。
ああ、もう、本当こいつには敵わない。
結局、俺はこいつにベタ惚れなのだ。
ーー結局の所ベタ惚れというやつです
『
モノクロメルヘン』さまより