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『…ミツルさんのばかっ!!』

そう言ってミツルさんの部屋を飛び出してから、数日が過ぎた。
次の日は、ミツルさんから拒絶されたことや、ミツルさんにばかだなんて言ってしまったことで公園に行く勇気なんてなくて。ただただ、ベッドの中で蹲っていた。
わかんない…。だって、ミツルさんは僕のことを抱きしめてくれたのに。どうして一緒にいたらいけないなんて言うの?
わかんない、わかんない、わかんないーー。




次の日も、公園に行く勇気なんてなかったけれど。このまま行かなければ、本当にミツルさんに会えなくなってしまう気がして。
会って拒絶されるよりも、会えなくなる方が怖い。そう思えば、重い足を引き摺って公園へ向かった。



ーーやっぱり、いない。
ミツルさんは来ていないかもしれない。そう、予想はしていた。だって、会うのをやめようって言ったのはミツルさんだから。
元々、待ち合わせなんてしてなかった。ただ、僕は毎日公園にいて。ミツルさんは昼休憩になれば公園に来て。それが当たり前になっただけ。どちらが来るのをやめたら、もう会えなくなるかもしれない。そんな曖昧な関係だったことに気が付けば、物凄く悲しくなった。
…もしかしたら、まだ仕事をしているのかもしれない。今までだって、午前の仕事が長引いて、遅くなることなんていくらでもあったのだから。
僕は自分に言い聞かせるように頷くと、自販機でスポーツドリンクのペットボトルを買って、いつものベンチに腰掛けた。
今日も暑い。暑いけど、ここでミツルさんを待っていたいから。また倒れたりしないように気をつけなきゃ。
ぼんやりと、ミツルさんの会社のある方を見つめる。たまに、サラリーマンらしき人影が見えればはっと腰を上げかけるけど、全然違う人だったのがわかれば、俯き溜息を漏らす。
そんなことを何度繰り返したかわからなくなる頃には夕方になっていた。
僕が昨日いなかったから、来なかったのかも…。そう考えれば悲しくて。
空が真っ黒になった頃。
明日は来てくれるかもしれない。自分にそう言い聞かせるように、公園を出た。




ーー次の日も、ミツルさんの姿はなかった。
これから来てくれるかもしれない。僕は、そう自分自身を言い聞かせるようにして、昨日と同じようにスポーツドリンクのペットボトルを買って、いつものベンチに腰をおろした。
…時間って、こんなに長かったっけ。何度となく繰り返し見る時計の針がなかなか進まなくて、溜息が漏れた。
ミツルさんと一緒にいた時は、あんなに時間があっという間だったのにな。
空がオレンジ色に染まっても、真っ黒になっても、やっぱりミツルさんは来なかった。
ミツルさんに、会いたいな。
ミツルの優しい笑顔とか、僕の頭を優しく撫でてくれた手とか。思い出すと、とても恋しくて。胸がぎゅっと苦しくなった。




…迷惑、かな。
ーーミツルさんのことを公園で待ち続けて一週間程。ミツルさんが公園に来てくれることは一度もなくて。僕は悩んで、悩んで、ミツルさんの勤める会社の前まで来ていた。
迷惑かもしれない。そう思って、やめようかとも思ったけれど。それでも、やっぱりミツルさんに会いたくて。
仕事中なのに、中まで行ったら迷惑だよね。そう考えて、会社の前をふらふらと、行ったり来たりを繰り返した。



空がオレンジから濃い青に変わり始めた頃だった。

「あら、貴方…」

「!?」

誰? 仕事帰りの人が会社からぱらぱらと出始め、目立たない場所へ隠れようとしたところを、知らない女性の呼び止められて、僕は戸惑いながらも振り返った。
この会社に、ミツルさん以外に知ってる人なんていないけど…。

「驚かせてごめんなさいね。貴方、この間医務室に運び込まれて来ていた子でしょう?」

優しい笑みを浮かべながら、違う? と首を傾げる彼女に、やっぱり見覚えはなくて。それでも、運び込まれていたのは事実なので、おずおずと頷く。

「…そう、です」

「やっぱり。あ、私この会社の医務室で働いているの。ごめんね、あの時貴方、気を失っていたし、私のことなんてわからないわよね」

僕の返事に頷けば、彼女は気さくに自分のことを教えてくれた。
覚えてないけど、自分のことを助けてくれた人。それがわかって、僕はぺこりと頭を下げる。

「はい。…けど、ありがとうございました」

「どういたしまして。体調はもう大丈夫?」

気にかけるように聞かれた言葉に、僕は頷く。

「はい。もう大丈夫、です」

「そっか。なら良かったわ。今日はどうしたの?」

僕の言葉にほっとしたように頷くも、そういえば、と思い出したようにそう聞かれて、僕は少し悩んてから口を開いた。

「ぁ…その、ミツルさんに会いたくて…」

俯き、小さな声でそう言えば、彼女は納得したように頷く。

「ミツル…あぁ、あの時貴方を連れて来た新人くんね」

「はい…」

ミツルさんは、どうしているんだろう。僕はそわそわする気持ちを抑えながら、彼女の言葉を待った。
だが、眉を寄せ、言葉に悩むようにする彼女に、少しずつ不安が募る。

「彼…一週間位前からかしら。ずっと欠勤しているのよ」

重い口を開けて告げられた言葉に、僕は瞳を見開いた。

「欠勤…?」

会社、休んでいるの? どうして?

「なんで…」

言葉を失う僕に、彼女も困ったように言う。

「電話をしても繋がらないらしいのよ。彼の上司も、無断欠勤するような奴じゃないのにって心配しているんだけどね」

「…」

無断欠勤…。僕の知っているミツルさんも、無断欠勤なんて、するような人じゃなくて。だけど、すぐにある事に気付いて固まる。…一週間位前って、丁度僕が熱中症で倒れたあの日の、すぐ後だ。

「貴方にも、連絡はないの?」

黙り込んでしまった僕に、気遣うような優しい声音で問われ、小さく頷いた。連絡なんて、ない。
このまま、本当にミツルさんと会えなくなってしまうのかな。ミツルさんと会えなくなったら僕は、また独りでぼんやり過ごすのかな。ミツルさんのいない世界で、独りきりで、またーー。

「……やだ」

「え?」

そんなの、嫌だ。僕は、やっぱりミツルさんといたい。

「…ミツルさんの家、行ってみる、ます」

ぽつりと、小さな声でそう言えば、女性は優しく頷いた。

「そうね。貴方が言ってあげたら、彼もきっと喜ぶわ」

喜ぶかな。わかんないけど…。
けど、ミツルさんに会えたら、僕は嬉しい。

「彼に会ったら、会社に電話の一本くらい入れなさい、って言っておいて」

軽口のようにそう言って笑う彼女に、僕はこくりと頷くと、精一杯の早さで走り出した。







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