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「白くん! お待たせ」

そろそろ来る頃かな。そう思って時計を見始めてから、時計の長針が一周した頃にミツルさんはやってきた。

「ごめんね 、出掛けに上司に捕まっちゃってね」

「んーん、大丈夫。仕事、お疲れさま」

息を切らしながら、ごめんね、というように僕の頭をぽんぽんと撫でるミツルさんに、僕は首を横に振って応えた。
初めて声をかけられてから半月。あれから、昼休憩になると僕の元へやって来るミツルさんに、僕も中途半端な敬語がなくなるくらいには、一緒に過ごす時間に馴染んできていた。

「ご飯にしようか」

ミツルさんは柔らかい笑みを浮かべると、片手に持っていたコンビニ袋から取り出したおにぎりとシュークリームを僕の膝に置いた。

「…ありがと」

オムライスのおにぎりも、甘いシュークリームも僕の好きなもの。それを見てはにかむ僕の頭に、もう一度大きな手が乗る。

「本当ならもっと食べて欲しいんだけどね。…少しでも食べようね」

ミツルさんの言葉にこくんと頷いて、僕はおにぎりのフィルムを剥いた。




ーー初めて話した次の日のことだった。

「白くんはもうご飯食べたの?」

ミツルさんは昼食のコンビニ弁当を口に運びながら、聞いてきた。

「昼ごはんは食べないから…」

「え? それじゃあお腹すくでしょう?」

「別に…」

公園で過ごすようになってから、お昼を食べる習慣がなくなってしまっていたし、最近は暑さのせいで食欲が落ちてもいる。
ここ最近はお腹がすいた感覚を感じることもなくて、特に気にもしていなかったのだけど…。

「こーら。育ち盛りなのに食事抜いてたら、大きくなれないよ? 」

「……」

別にそんなことないし…。そう思った気持ちは顔に出ていたらしい。

「そんな顔してもだめだよ。ただでさえ暑いんだし、体調崩してからじゃ大変でしょう」

「そうだけど…」

体調崩したらいろいろ面倒くさいけれど、きちんと食事をするのも面倒くさい。そんな僕を見て、ミツルさんは困ったようにため息を一つ。
…呆れられた、かな。そう思えば気まずくなり、僕は俯く。だけど、聞こえてきた声は予想外の優しいもので。

「……じゃあさ。俺は明日もここでお昼を食べるから、白くんも一緒に食べてくれないかな」

言葉の優しさに惹かれるように顔を上げると、言葉と同じ、優しい柔らかな笑みを浮かべるミツルさん。

「え、でも…」

戸惑う僕のことなんてお構いなしに、ミツルさんは笑顔で僕に言う。

「だって独りで食べるのは寂しいでしょう?」

「……ずるい」

そんな風に言われたら、嫌だなんて言えない。多分、ミツルさんはそんな僕の気持ちなんかわかっていて。ミツルさんは断れなかった僕に、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「白くん、何が好き? 明日買って来るから一緒に食べてよ」

「……シュークリーム」

そう答えれば、ミツルさんは困ったように笑う。

「デザートも買ってきてあげるから。ご飯は何が好き?」

ーーなんで、この人は知り合ったばかりの僕に、こんなに優しいんだろう。

「……オムライス」

ぽつりと答えた僕に、嬉しそうに頷けば、ミツルさんは僕の頭をくしゃりと撫でた。

「ん、了解」

ーーわからないけれど。
優しく笑うこの人の隣にいるのは、心地良かった。




「…もう、お腹いっぱい?」

おにぎりを半分ちょっと食べた辺りで食べるペースが落ちれば、気遣うような声でミツルさんが声をかけてきた。
ミツルさんのお弁当は、もうだいぶ前に空になっている。

「…これ以上食べると、シュークリーム食べれない」

僕はミツルさんの言葉に頷き、ぼそぼそと答えた。
ミツルさんが初めてご飯を買ってきてくれた日、買ってきてくれたお弁当を半分近く残してしまって、それからおにぎり一個を買ってきてくれるようになったのだけれど。日に日に増す暑さに、おにぎり一個食べきるのも、きつくなってきたらしい。
せっかく買ってきてくれたのにな。小さくため息をもらせば、不意にミツルさんが僕の頭を撫でた。

「なら、残りは僕にちょうだい。白くんはシュークリーム食べなよ」

「え、けど…」

唐突な申し出に戸惑う僕にお構いなしで、ミツルさんは優しく声音とは裏腹な強引な態度で僕の手の中のおにぎりを取り上げれば、食べるのを促すように封を切ったシュークリームを持たせる。

「明日は残さず食べてもらうから、ね?」

そう言って笑えば、僕の食べかけのおにぎりを気にした様子もなく食べ始めた。それが、なんだか照れ臭くて。

「…うん」

僕は持たされたシュークリームをもそもそと食べ始めた。甘くて、おいしい。

「…と、もうこんな時間か」

僕がシュークリームを半分ほど食べ終えたところで、時計を見たミツルさんが、名残惜しげに呟いた。仕事に戻る時間らしい。

「ごめん、もう戻らなきゃ」

そう言って立ち上がれば、心配そうに僕に聞く。

「シュークリーム、全部食べられそう?」

本当は、もう食べるのが辛くなってきていたけれど。

「…ん、食べれる」

そう言って頷けば、ミツルさんはほっとしたように微笑を浮かべた。

「そっか、良かった」

おにぎり食べてもらったから、シュークリームはちゃんと全部、食べなくちゃ。

「明日は何食べたい?」

そう聞いたミツルさんに、

「プリン」

と答える。

「じゃあ、プリンとツナマヨおにぎり買ってくるよ」

ミツルさんがそう言ってさりげなく追加したおにぎりは、僕の好きなツナマヨで。

「…ありがと」

照れ臭くてぼそぼそ呟く僕に、ミツルさんは僕の頭を優しくくしゃりと撫でた。

「じゃあ白くん、また明日ね」

そう言って小さく手を振れば、早足で会社へと戻って行くミツルさんの後ろ姿を、僕はぼんやりと見えなくなるまで見送る。
ーー行っちゃった。僕は手の中に半分残ったシュークリームを、ゆっくり口に運んだ。

ミツルさんは変な人だと思う。
平日の昼間に公園でぼんやりしてる僕に「学校は?」って聞くこともなく、ただ「明日何食べたい?」とだけ聞いてくる。
少し前は「明日は来る?」とも聞いてきたけれど。それも夏休み期間に入ったからなのか、聞かれることはなくなった。
いっぱい話すわけでもなくて、ぽつりぽつりと話しながら、一緒にのんびりとご飯を食べるだけ。
僕と一緒にいても、面白いことなんてない筈なのにな。

ーー僕は、ちょっと楽しいけど。

そんなことを考えながら、僕は残りのシュークリームを無理矢理口の中に詰め込んだ。
暑くて、お腹いっぱいで、気持ち悪かったけど。
ミツルさんがくれたシュークリームだって思うと、なんだか幸せだった。








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