「佐倉(さくら)ー、購買行こうぜ」
四限目終了のチャイムが鳴ると、前の席に座っていた坂木 伸行(さかき のぶゆき)が振り返りながら、静(せい)に声をかけた。
席が近いからってだけかもしれないけれど…。それでも、そうやって誘ってもらえることが嬉しくて。
静は教室を机にしまいながら、笑顔で頷く。
「ん、お腹すいたねー」
「ほんとな。早く行こうぜ」
良いのなくなっちまうと、既に机を片し終えていた伸行は、のんびりとした静の腕を掴むと早足で歩き始めた。
「っ、坂木…!」
「佐倉遅えんだもーん」
不意に掴まれた腕に静が赤くなっていることに気がつくこともなく、伸行はぐいぐいと購買へ向かって進んで行く。
赤くなっていることを誰も気に留めませんように。そう祈ることに必死になりながら、静はただ伸行について足を動かした。
「佐倉のさー、すきなパンなんだっけ、あれ」
「あ、大福パン?」
問われた言葉に返しながら、ずっと言いたくて、だけど言えない言葉が脳裏を過ぎった。
「そうそう、それ。佐倉いっつも食べてるからさー、俺も食べてみたくなってさ」
「あれ本当おいしいんだよー、つい買っちゃう」
ーーねえ、坂木。心の中で呼びかける。
「今日も大福パンあったらさ、佐倉の半分わけてよ。」
「え、買わないの?」
ねえ。
「だって、なんか自分で買う勇気はないんだもん。佐倉にも俺買ったの半分あげるからさぁ」
「勇気って。普通においしいのに」
ねえーー、
『名前で呼んで欲しいの』
「や、けどなんかネーミング、結構インパクトあるじゃん」
「まあ、それはそうだけど」
ーー伸行からの言葉に、笑いながら言葉を返すけれども、一番言いたい言葉は今日もやっぱり言えなくて。
名前で呼ぶ友達だってそれなりにいる伸行だ。頼めばすぐにでも、名前で呼んでくれるようになるのだろうと思うけれど。
それが言えないのは、友情の後ろに隠した恋情のせいーー。
「名前で呼んでほしいの」
『
エソラゴト。』さまより。
意図せずに甘めの軽い話がない気がするなぁなんて思って書いたんですが、、、
切なさはすこーし少なめになったでしょうか。
名前で呼んで、って言葉にできていたら甘い話に近づけたんでしょうかね。
いつか、言葉にできる日がくる事を祈りつつ。
読んでくださりありがとうございます。