「橘(たちばな)、今日合コンだって」
郁(いく)は不満げな声音でそう言うと、チューハイを煽り飲んで大きな溜め息をついた。
「郁も一緒に行けば良かったのに」
机につっぷしてグダグダ言う郁に、俺ーー誠(まこと)は呆れを含ませた声音でそう言った。
そんな俺をじとりと睨むも、郁はすぐに目をそらして、チューハイをちょびちょびと飲みながら相変わらずの不満げな声音で返す。
「やだよ。…女の子と一緒にいて嬉しそうにしてる橘なんて見たくない」
「まあ、確かにそれはなぁ…」
もっともな言葉に俺は苦笑を浮かべながら、郁の言葉に頷いた。そりゃあそうだ。好きな奴が他の相手に笑いかけてるところなんて、見たい訳がない。
「…あー! もう!!」
不意に大きな声をあげた郁は、まだ半分くらい残っていたであろうチューハイを一気に飲み干し、床にごろりと転がった。
胡座をかいて座る俺の膝のすぐ横辺りにくる郁の頭。拗ねて眉を寄せる顔に、アルコールで緩んだ感情が、瞳に涙を溜めさせた。
「…なんであんな奴、好きになっちゃったかなー。あんな女好き、好きになっても報われるわけないのにね」
「郁…」
ーー無意識に、腕が伸びた。郁の瞳に溜まる涙を指先で拭い、気が付けばそのまま柔らかな髪を優しく撫でていた。
俺の行動に、郁は驚いたように瞳を見開くも、すぐに心地良さそうに瞳を閉じて、されるがままに身を委ねる。
「…誠やさしー。俺、誠のこと好きになってたら、絶対幸せになってたのになー」
甘えるような拗ねた口調で呟かれる残酷な言葉に、俺は撫でる手はそのままに、苦笑を浮かべながら言い返す。
「そんなこと言って…。それでも郁は、橘が好きなんだろ」
その言葉に帰ってくるのは、
「……うん」
残酷な肯定ーー。
暫くされるがままに撫でられていた郁は、ぽつりと呟いた。
「……恋って、難しいね」
ーー本当、恋って難しいよ。
俺は、今日も何もない顔をして、愛しい相手の恋愛相談を聞いている。
「……恋って、難しいね」
『
エソラゴト。』さまより。
好きな人が好きになってくれれば良いのに。
そうでないから、恋は難しい。
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