■ 01

アナログ時計が時を刻む音がする。目を向ければその二本の針たちはもう幼子の眠る時間がとうに過ぎていることを告げていた。紫苑はそれを見て、もう何度目か分からないため息をつく。

「ほら、寝ないと大きくなれないよ?」

言った言葉の意味はまだ理解できていないだろうが、せめて気持ちだけは伝わっていてほしい。けれどそんな思いとは裏腹に視線の先のその子は紫苑の手を掴んだまま楽しそうな声をあげた。

…機嫌がいいのはいい。泣かれてもまだあやし方が上手くないという自覚はあるからだ。でも寝かせられないとまでは思わなかった。幼子ってこんなにこんな時間まで元気なものなのか。

自分のまわりに今までいなかった存在だから扱い方が分からない。いや、物みたいに言ったら失礼だ。これは接し方が分からないとでも言えばいいのだろうか。


「ぁ、あうあ」


言葉にならない声でキャッキャッとはしゃぐ幼子。泣くことと食べることと遊ぶことと寝ること。それがこの年頃の幼子全員の仕事だと紫苑は思っていた。事実、間違ってはいないだろう。だから…。


「ほら、もう寝よう。シオン」
大きくなれないぞ、と言っても通じないのは分かっている。それはもう理解した。でも他にどんなことを言ったらいいか分からない。何をすれば眠ってくれるのか知識にない。

紫苑はもう数えるのをやめるほどついたため息をもう一度ついた。
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