■ 姫と悪魔
今日も今日とてあくましゅうどうしの部屋で姫が眠っている。危機感のない姫にどうやって分かってもらおう?頑張るあくましゅうどうし。※最後はご想像にお任せいたしますのスタイル))「私だって男なんだよ」はあくスヤの課題だと思っているので消化した。
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ベッドの軋む音が煩わしく感じるのは罪の重さを自覚させるからだろうか。ひと回りもふた回りも小さな身体に跨り押さえつけた両腕は柔らかなシーツの上に組み敷かれ、そこからこちらを見上げる彼女は状況を理解しているのかいないのか判断し得ぬほど、いつもと変わらぬ澄んだ瞳をしていた。
「──だから、何度もダメだって言ったんだよ?」
少しでも加減を間違えてしまえば、この白くてか細い腕は折れてしまうだろう。決してそんな痛ましいことなどしないと誓えるのだが、怖がらせてしまっている事実は拭えない。しかしこうでもしないと分からぬ彼女に苛立たしさを覚えたのは事実であり、挑発した原因は彼女の無知さゆえである。
「私だって《男》なんだよ。姫」
楚々とした星の瞳に映る穢らわしい悪魔に対して何を思い感じるのか。力で捩じ伏せようとする卑劣な存在にこそ果たして彼女も怒りというものを覚えるのだろうか。
いつの日からか指先に触れることすら躊躇していた存在にこうして荒々しく接しているのはいわゆる『躾』と言うものであり、それ以上でもそれ以下でもなく、今回ばかりは理性と本能を切り離して慎重に行動しなければならない。まさか感情に駆られて失態を晒せば命を絶つしかないだろう。
もはや現時点でそうすべきだろうが役目を果たしてからでも遅くはない。否、彼女の貞操を守る為であると名分を掲げるのは自分以外の誰かにその役をさせる現実に、到底許せぬ己の欲を隠す言い訳なのだが、もしそうなるのであれば相手を刺して自分の命を投げ出しても良いと思う。
暗闇に窓から差し込む月明かり。長く美しい藤色がかった銀髪が絡む首筋。露わにされた肌に誘われ唇を寄せる。溢れ垂れた蜜を舐め上げるかのよう薄い皮膚の表面にねっとりと舌を這わすと、今まで微動だにしていなかった彼女の吐息が耳にかかり、先程までの決意を揺らす恍惚が身体の芯を擽った。
柔らかな耳朶まで舌先で濡らしながら嬲ると、彼女は力の抜けていた手を握りしめてふるりと肩を震わせる。
「姫」
鼻を掠める甘い蜂蜜の香りに絆されながら静かに耳元へ囁くが返事はなく、そのかわり敏感な白肌が徐々に体温を上げていく様の愛おしさを胸に押し込める。抑えつけた両手を離し、手のひらで頬に触れると、彼女は視線を逸らしてぼんやりと天井を眺めているようだった。
「……分かった?こんなことされたら、すごく気持ち悪いだろう?」
「…………」
まるで答える素振りのない反応に落胆しながらも自らの身体を起こそうと半身をもたげる最中、引っ張られた右腕には彼女の指先まですべらかな両手が添えられていた。不意に見下ろすと、ほんのり頬を染めた彼女が笑うでもなく、まっすぐこちらを見据え口を開く。
「気持ち悪くなんか、ないよ」
つられて視線を交わせると、淡い葡萄色した瞳に浮かぶ星が揺れていた。濡れた耳朶を確かめるように指先をそっと添え羞恥に顔を染める様子は、日頃の彼女から想像できるものではなく、月夜の戯れに己の理想を映し出したものかと錯覚を覚える。
彼女がゆったりと起き上がる素振りを見せると反射的にその腰に手をかけ支えてしまい、流れるようにするりと首へ回された両腕に気を取られると、甘やかな彼女の香りに包まれた。
「レオ君は優しいから平気」
たった一言囁くと訪れる沈黙の中、血と共にえもいわれぬ熱が全身を駆け巡る。速くなった鼓動に耐えきれず眩暈を起こそうとする自身に鞭を打ち意識を保つが、隙間のない心と身体の距離感に本来の目的はとうに忘れ去られ、焦った自意識だけが目を覚ます。震える両手で密着した彼女の身体を引き剥がせば、熱を溜め込んだ顔を見られまいと俯くなんと情けないことか。
「姫……。私は、平気じゃないみたい──…」
昂る熱に身を任せるべきか、頼りない自制心にしがみつくべきか。無垢な誘惑を前に静かに喉を鳴らす。まるでカーテンを引くかのように月に雲がかかると、暗闇に全てを呑ませるために強く、強く、瞼を閉じた。
──…数刻、コウモリのざわめきに目を覚ました時には彼女はおらず、しかし、シーツに染みた愛おしい香りと手には一本のピンク色した髪飾りだけが残されていた。銀糸の絡む柔らかなそれを握りしめ、口元に寄せると、ひとり冴えた月夜を見上げた。
END.*。
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