■ 人魚姫より眠り姫
出演:
メイン/姫・悪魔・根菜
友情出演/魔王含めてなんかたくさん
サブタイ/根菜でモチを焼く話し(?)
・*.°
仄暗い廊下の続く先に、一枚の扉があった。吊るされたプレートには『シルモスの研究室』と書かれている。ギィッと古びた音を立てて扉が開くと、天井に橙黄色の灯りがほんのりと揺れており、灯りの真下に置かれた大きめの丸テーブルには、沢山の資料が乱雑に積まれている。そして手前には精巧なデザインの施された魔法薬瓶が三本、並べられていた。その内のひとつに手を伸ばす、怪しげな影──。
・*.°
今日も魔王城は大勢の魔物達が行き交い賑やかだ。はりとげマジロ、やしき手下ゴブリン、フランケンゾンビの三人組が話しをしながら荷台を押して、重い荷物を運んでいる。
「あ、よう! 姫」
「…………(ニコッ)」
はりとげマジロが片手をあげて呼びかけると、姫は微笑み、ひらひらと手を振った。どこかに向かっている最中なのか彼女は歩みを止めることなく、そのまま角を曲がって姿を消した。はりとげマジロは歩みを止め、やしき手下ゴブリンが振り返る。
「どうした?」
「今の姫……、なんかおかしくなかったか?」
「そうか?」
「姫がおかしいのは、いつものことだろ〜」
フランケンゾンビの言葉に、三人は顔を見合わせた。少しだけ、ほんの少しだけ、何か違和感を感じたような気がするのだが……。まぁ、確かに気のせいだったかもしれない。はりとげマジロは「そりゃあそうだ」と笑って納得すると、先ほど途切れた会話の続きをしながら、再び荷運びの仕事へと戻っていった。
ハーピィが山積みの紙の束を抱えながら歩いていると、姫が通路の端から姿を現した。横切る姫を視界にとらえたハーピィの顔が、パッと花を咲かせるように明るく輝く。
「姫! おはようございます!」
「…………(ニコッ)」
柔らかな微笑みを浮かべた姫は、またもや軽やかに手を振った。
「はわわわわっ!」
大好きな姫の笑顔。しかも手も振ってくれるなんて、今日はめずらしくサービスがいい。ハーピィが顔を真っ赤にさせてよろけると、手元の紙の束がドサドサと床へ流れ落ちてしまい、近くにいた魔物達が慌てて拾い集める。乱れた心を落ち着けようと深呼吸をしながら、ハーピィは遠くなる姫の背中を見つめた。
「…………姫?」
悪魔教会の扉に手を掛けたあくましゅうどうしは、背後からの足音にピタリと動きを止めた。振り返ると姫がトコトコと近寄り、すぐ側で立ち止まる。あくましゅうどうしを見上げてはニコリと微笑んだ。あくましゅうどうしも微笑み、姫の笑顔に答える。
「おはよう姫。こんな朝早くからここにくるなんて、珍しいね」
「…………(ニコニコ)」
「…………」
「…………(ニコニコ)」
「…………?」
「…………(ニコニコニコニコ)」
「…………姫?」
爽やかな笑顔のまま、あくましゅうどうしの頬に、一筋の冷や汗が流れた。
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