「どうしたの登奈。俺が来たからショックで固まった訳?……そんなに俺に……会いたくなかった?」


那奈登が悲しそうに声のトーンを下げ目を伏せる。


「登奈ちゃん!!こんな格好いい彼氏を傷つけちゃ駄目でしょ!?もっと喜ばないと!!」


……騙されてるよ絵理ちゃん。那奈登を見やるとあたしの視線に気付いたのかウインクをした。やっぱり芝居だったんだ…。


「っと!もうこんな時間なんだ。それじゃ登奈、今度会う時は俺の部屋で☆」

「へ?あ、うん……またね。」


あたしにもう一度ウインクをするとヒラヒラ手を振ってその場を去った。我が弟ながら嵐みたいな子だなぁ…。
そんな事を考えながらあたしも手を振り返した。

それは恋人がいきなり現れてあっけに取られながらも対応する彼女みたいな雰囲気……あたしはそんな空気を感じていた。でもあたしと那奈登って…。


「登奈ちゃ〜ん?今度会う時は彼の部屋でってどういう意味なのかな〜?まさか天然ですって顔してもう彼氏とベットインした訳〜?ちゃんと説明しなさ〜い!!」


絵理ちゃんが凄い形相であたしを見た。
絵理ちゃん怖い…。あたしと那奈登って双子の姉弟なのに〜…。なんか絵理ちゃんのあまりの怖さに泣きたくなってきた。

さっさと誤解を解いて那奈登に注意しないと。
そう考えていた時に那奈登の声が聞こえた。聴覚的にじゃない、脳に直接響いている。


『登奈、早く来い。俺達の出番だ。』


その言葉は聞きたくなかった。その言葉を聞いた瞬間にあたしの体が一瞬硬直する。

だけど目の前にいる絵理ちゃんはそれどころじゃないらしくあたしの様子に気付いていないみたい。
良かった……この事だけは誰にも言う事は許されないから…。


「ごめん絵理ちゃん!これからスーパーで特売があるの!!これ逃したらうちの食費が厳しくなるし……また明日!!」


あたしは何かと付けてその場を逃げ出す事にした。絵理ちゃんも怖かったし何より那奈登が呼んでいる。無駄に時間を過ごす訳にはいかないから…。

でもスーパーで特売があるって言うのは本当。今日の新聞の挟まっていたチラシにそう書いてあったから。
毎朝チラシを読む癖を付けていて本当に良かったと思う。

慌てて走り去ったあたしの後ろ姿に絵理ちゃんはまだ怒鳴り声を上げている。でも追いかけてくるような事はしない。それが絵理ちゃんの良い所。

あたしが慌てているとどんなに怒っていても追いかけたりは絶対にしない。あたしは良い友達を持ったと思う。


例えそれが……3 ネ ン カ ン ダ ケ ノ カ ン ケ イ ダ ト シ テ モ──…

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