「決まってない、からね。」

「決まってない?」

「そ。呪文なんて、個人で適当、なの。」


だいぶ息が整ってきたエースと違いまだ息が上がったままのレジーナだが、エースの疑問に答えるべく口を開いた。


「何だそりゃ。」

「よく考えて、決まってたら、誰から教わるの。」

「まぁ、確かにな。」

「呪文ってのは、自分の中でイメージを固める、手助けみたいなもんよ。魔力を練りながら、自分の中でどんな風にするか、考えるの。考えを具体的にして、魔力の量も丁度良いなら詠唱破棄出来るんだ。でもそんなのは簡単な魔法かよっぽど優れた人くらい。」

「ふーん。」

「そこで、呪文の登場。呪文で魔力にイメージを教えるの。例えば『炎よ』だけじゃ炎が出てくるだけだけど、『炎よ、私の周りを渦巻け』だったら私の周りをぐるぐる回る炎が出来上がり。」

「イメージだけなら簡単そうなんだがな。」

「そう思うでしょ?でもね、魔力にイメージを叩き込むのにも魔力を使うの。だから余計な魔力を使う余裕が無い人は大体詠唱した方が疲れにくいんだ。ちなみに私も詠唱しないと魔力が持たないけどね。」

「何か、魔法は難しいな。」

「うーん……魔法はね、記憶の行程に似てるの。手掛かり無しで思い出すのはよっぽど鮮明に覚えているか時間をかけるかでしょ?でも言葉とかきっかけがあれば記憶は簡単に思い出せる。呪文はそのきっかけよ。」


話している内に体力が戻ってきたレジーナの息はすっかり整っている。
起き上がって自分の体についた汚れまで払う余裕が出てきた。


「さ、そろそろ行こうよ。早くしないとジョーカーが心配だ。」

「おっと、そりゃそうだ。」


座り込んでいた二人はレジーナの一言で再び探索に入る事にした。
この森に来た目的、ジョーカーが熱を出したためにその特効薬となる薬草を探すために。


「ついうっかり燃やしてなきゃ良いけど。」

「おいおい、洒落にならないぜ。」

「レジーナさんの魔法と薬草は相性が悪いの!」


火の魔法を得意とするレジーナは火の特性上狙った獲物だけを攻撃するのは難しい。
通った場所全てを焼いてしまうのでどうしても細かい調整が出来ないのだ。無論、優れた魔法使いなら出来るだろうがレジーナにそこまでの技術は無い。


「……おいおい。」

「どうしたの?」

「これか?」


辺りを探索して数分もしない間に呆れたようなエースの声がした。
気になってレジーナが近寄るとエースの手には探していた薬草が握られている。


「……ちょっと簡単過ぎない?さっきまでの苦労は?」


必死になって逃げ回っていた状況を思いだしあまりにもあっさりとした結末にレジーナは愕然とした。


「ま、これ以上動き回るよりかはマシだろ。」

「そうだけどさぁ。」

「行くぞ。」

「はーい。」


エースの言う事ももっともである。
どこか釈然としないままレジーナ達は帰路に着いた。

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