「参ったなぁ。」

「どうしたんですか?」


マスターが珍しく朝から困っている。
珈琲はいつも用意していて切らした事は無いし、アリーさん達から特に用事を頼まれてもいない。
マスターが困る事って何があるんだろう?


「最近サキュバスが夢に出るんだよね。」

「へー。……はあああああ!?」

「大袈裟だよ、君。」

「むしろお前が軽いんだよ!!」


サキュバスってあの淫魔のサキュバスじゃないか!
マスターは魔力をたっぷり蓄えてるしエルフの中では比較的若い。サキュバスにしたら御馳走にしか考えられないのだろう。


「人の睡眠を邪魔するのは止めて欲しいよね。」

「だから軽いっつーの。」


サキュバスに狙われたら最後、男は限界まで精を奪われて生ける屍となるのに…。
多少は抵抗出来ても私が知る限りサキュバスから逃げ切れるのはほんの一握りの人物だけだ。


「毎晩追い払う方の身にもなって欲しいよ。」

「……追い払えたんですね。」


この人もその一握りの人物だったらしい。もう驚く事もない。
無駄に体力を使う暇があったら昼食でも作ろうか。最近寒くなってきたしポタージュなんかが良いだろう。


「今日の昼食は何だい?」

「ポタージュですけど。」

「そんなに貧乏だったかなぁ。」

「ちゃんと付け合わせも作るわ!!」


全く、喫茶店が儲からないのは事実だけど他から収入があるんだからそこまで質素な訳がないだろうに。
あれか、私が貧乏性とでも言いたいのだろうか。悪かったな、経営に煩くて。


「ポタージュだったら牛乳使うよね?」

「そうですけど何か?」

「小皿に一杯くれないかな。」

「マトには餌あげてますよ?」

「君は馬鹿かい?サキュバス対策に決まってるじゃないか。」


ストレートに馬鹿って言われた。あんたに言われたくない。
マスターに言われて思い出したけど、サキュバスは意外と間抜けだから牛乳と精液の区別がつかないらしい。


「折角だからサキュバスを捕まえないとね。」

「何に使うんですか?」

「悪魔というのはその身体自体が魔力の塊なんだ。上手くいけばそれを生かせるかも知れない。」


マスターに目を着けたサキュバスは実に運がない。
けど、マスターを選んだそっちが悪いんだから仕方ないか。


「さぁ、そうと決まれば準備をしよう。」


やる気を出したマスターに水を差すのは止めて、今日の昼食は私とマトだけで食べるとするか。

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