「大体ね、犬を彼氏にする女が居ると思う!?」

「その人は末期なんだな、って思うけど?」

「私は居ないって言いたいんだ、バカ!!」


あーもう!本ッ当にこのスカポンタン上司は…!
この破綻した人格が無きゃどんなに良いのか、と何回考えさしゃ良いんだ!


「ったく……とにかくこいつを見て下さい。」

「見たけど?」

「……。この犬、その辺で拾ったんです。」

「食べる気で?」

「誰が食べるか!……じゃなくて。このままだと可哀相なんでこの店で育てて良いですか?」

「元の所に返しておいで。」

「少しは迷えよ鬼畜マスター。」


何となく予測はしてたけど、この流れは予想してたけど。

私の腕に抱かれた子犬は剣呑な空気を理解したのか寂しそうな目で私を見上げる。
犬種はゴールデンレトリーバー。毛の色は薄汚れているから判別しにくいけど金色。


「君は失念しているかも知れないね…。ここは喫茶店なんだよ?」

「うっ…。」

「仮にも飲食店に獣を持ち込むなんてどうかしてるね。」

「獣って言い方は止めてくださいよ。」


このスカポンタンにも人並みの感覚はあったのか…。
普段常識の欠けらも無い発言する人からまともな発言されるとグッとくる…。いや、悪い意味でだけど。


「ただ…。」

「ただ?」

「営業時間内は店内に入れない、掃除は徹底的に、が可能なら考えても良いよ。」

「ほ、本当ですか?」

「うん、考えるだけ。」

「この期待させ屋のすっとこどっこいが。」

「冗談なのに。」

「タチの悪い冗談ほざくんじゃねーよ。」


口では憎まれ口を叩いても、嬉しくて仕方ない。

かなり回りくどい言い方だけど、要は『犬を飼っても良い』という事なのだから。


「名前。」

「マスターと呼ぶのに不満があるのかい?」

「あんたじゃねぇよ。この犬に名前を付けてって言ってんです。」

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