片思い


「何やってんだよ、このバカ!」

「ご、ごめん!」


目の前に散らばった雑草の山、その上で倒れてるアリスに向かって怒鳴り付けた。


「大体何で転ぶんだ!?ちゃんと前くらい見ろ!」


せっかく兄さんに頼まれた草むしりが終わったってのに、アリスが積み上げた雑草につまづいて散らかしやがった。
これじゃボクの仕事が増えるばっかりじゃないか!


「本当にごめんね?」


洋服を草と泥だらけにしながらアリスは申し訳なさそうにこっちを見た。
別に本気で起こってる訳じゃないのに。ただ心配したいけど、それ以上に怒鳴らずにはいられないんだ。


「別に。お前邪魔だから屋敷の中に戻れよな。」


違う、ボクが言いたいのは……こんなんじゃない。


「どうされました?」

「あっ!」


運の悪い事に兄さんまでやってきた。ボクと違って何でもこなせて、アリスに優しく出来る完璧な兄さん。
そんな兄さんの登場にさっきまでのしおらしさはどこへやら、アリスの表情が露骨なまでに輝いた。


「あ、その!これは、えーっと…。」

「何も仰らなくて大丈夫ですよ。アリス様、お怪我はありませんか?」

「は、はい…。」


顔が赤くなって目がキラキラしてる。兄さんや当主様を前にしたアリスはいつもこうだ。
お嬢様が“面食い”って言ってたけど、ボクだって男らしくなってたら同じ目を向けられるのかな?


「おや、膝を擦りむいていますね。どうぞこちらへ。」

「兄さん!そんな奴放っておいて大丈夫です!」

「そうはいきませんよ。どんな僅かな傷も手当てする必要があります。」

「で、でも…!」


本当はアリスに手当てがいらないなんて思ってない。ただアリスを連れていかれるのが嫌なだけだ。


「あ、あの……これくらいなら自分で…。」

「いいえ、気遣いは無用です。さあ参りましょう。」


結局ボクの意思は少しも伝わらずアリスは兄さんに連れられて屋敷の中に入っていった。

アリスが好きだって、ボクの傍にいて欲しいって、正直に言えるようになりたい。

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